都道府県警察航空隊(とどうふけんけいさつこうくうたい)は、都道府県警察本部警備部に所属する執行隊の一つであり、ヘリコプターなどの航空機を運用して各種警察活動を行う組織である。

来歴

警察庁では、昭和35年度より各都道府県警察へのヘリコプターの導入を開始し、昭和38年度までにピストンエンジンの小型ヘリコプター6機を配備して、警視庁大阪福岡北海道を拠点として、おおむね管区単位で広域運用を図った。その後、昭和41年度で大阪府警察に川崎/ベルKH-4 1機が導入されたものの、これは同年の全日空松山沖墜落事故に伴う二重遭難事故で失われた機体の補充機であり、1960年代を通じて、国有機6機の体制が維持された[1]

この間、ヘリコプターの改良発達はめざましく、また警察用航空機の需要も著しく増大していた[1]。これに応じて、警視庁では、1968年に富士-ベル204Bを追加導入していた[2]。また昭和46年度からは国有機の増強も開始されたが、こちらもいずれもターボシャフトエンジン搭載の高性能機とされた[1]

任務

主な任務は以下のとおりである。

  • パトロール(警ら)活動
  • 犯人の捜索・追跡活動
  • 交通状況調査、交通情報の提供、交通安全広報活動
  • 公害事案の監視活動
  • 廃棄物不法投棄等の監視活動

また、山岳警備隊等が設置されている地域の航空隊では、遭難者の救助活動を担当している。さらに、大規模災害が発生した際には、広域緊急援助隊を速やかに被災地に派遣し、ハイジャックやテロ事件等の重大事件が発生した際には、特殊部隊 (SAT)を現場に展開させる等の任務にも当たる。

都道府県や政令指定都市消防局の消防防災ヘリコプターが運行出来ない場合、要請により、離島・僻地からの救急搬送に出動する。

機材

通常、航空隊が使用するヘリコプターは、警察庁が購入した国有財産であるが、一部のヘリコプターは都府県が購入しており、自治体所有となっている。ヘリコプターの機種や配備数は都道府県警察により異なるが、以下の機種が使用されている(2015年2月現在)。

塗色は機首が黒色、機体はオレンジ色の縦帯を巻いた空色と銀色のツートーン。これは全国で共通。メインローターは白と赤の縞模様で統一されているが、テールローターは赤白と黒白の2種類が存在する。

一部の整備は朝日航洋などの民間企業に委託されている[3]

装備

一部のヘリコプターに設置されている装備として、以下のものが挙げられる。

  • ヘリコプターテレビシステム
    振動で映像が乱れない「防振カメラ」を機体外部に設置し、地上の状況を中継するシステム。通称「ヘリテレ」と呼ばれている。
  • 赤外線カメラ
    夜間飛行用のカメラ。機体外部に設置されている。
  • レスキュー・ホイスト
    ケーブルを電動または油圧を用いて巻き上げる救助用のウインチ。機体側面に設置されている。救助隊員が降下し、要救助者を吊り上げて収容する際に使用。

この他に、遭難者救助用の各種機材をヘリコプターに搭載する。

都道府県警察航空隊の使用機種一覧
区分機種メーカー配備先備考
小型ベル 206ベル・ヘリコプター・テキストロン神奈川 大阪
ベル 429ベル・ヘリコプター・テキストロン長崎
EC135ユーロコプター警視庁 北海道 埼玉 福井 大阪 徳島 高知 宮崎福岡
A109アグスタ警視庁 北海道 宮城 山形 福島 群馬 埼玉 神奈川
新潟 静岡 愛知 三重 滋賀 奈良 兵庫 岡山
鳥取 島根 広島 山口 愛媛 佐賀 大分 沖縄
BK117川崎重工業 MBB共同開発秋田 岩手 茨城 栃木 埼玉 千葉 神奈川 愛知 石川
京都 和歌山 熊本
中型ベル 412ベル・ヘリコプター・テキストロン警視庁 北海道 青森 福島 山梨 新潟 愛知 岐阜
大阪 福岡 鹿児島
AS365ドーファンユーロコプター神奈川 長野 静岡 広島 福岡 沖縄
EC155ユーロコプター警視庁 兵庫AS365の改良型
S-76Bシコルスキー・エアクラフト兵庫 香川
AW139アグスタウェストランド警視庁 北海道 宮城 福島 千葉 新潟 長野 富山 大阪 鹿児島
大型S-92シコルスキー・エアクラフト警視庁2020年4月に登録抹消[4]
EH101アグスタウェストランド警視庁2018年6月に登録抹消
EC225/H225エアバス・ヘリコプターズ警視庁 福岡 沖縄

テロ対策機

北海道警察「だいせつ3号」

近年、一部地域の航空隊に、テロ対策機能を強化したヘリコプターが配備されている。これは中型ヘリコプターベル 412EPに、夜間飛行用の赤外線カメラや、電線を切断するためのワイヤーカッター等を装備したもので、機体は抗弾仕様であると言われている。

テロ対策機は、特殊部隊(SAT)と連携して運用するため、SATが置かれている都道府県警察に配備されている。

また、各機体の所属、名称、登録番号は以下のとおりである。

これらのヘリコプターは必ずしも「SAT専用機」ではなく、航空隊の警戒飛行にも使用される。また、大規模災害が発生した際には、災害支援ヘリコプターとして広域緊急援助隊などが使用する。

なお千葉県警察神奈川県警察沖縄県警察にはSATが置かれているが、ベル 412EPは配備されていない。これらの県警察には、中型ヘリコプターAS365ドーファンや、AW139が配備されている。

隊員

隊員は操縦士、「ヘリコプターテレビシステム」等の操作や救助要員として搭乗する特務員、整備士等に分かれている。

自衛隊海上保安庁に比べ人数が少ないため、効率の観点から操縦士や整備士の内部養成は行っていない。操縦士は警視庁航空隊のように選抜した警察官を外部の養成所(陸上自衛隊航空学校など)に派遣する余裕のある自治体は少なく、多くは自衛隊や民間からの中途採用に頼っている[5]。また整備士も航空関係の専門学校から新卒採用するか、民間から中途採用している[6]

通常、隊長・操縦士等は警察官だが、整備士は警察職員であることも多い。専門職であるため基本的に異動はない[6]

整備士はヘリに搭乗してヘリテレ操作やホイスト操作も行う[6]など、自衛隊の航空士に近いシステムである。

配備機一覧

都道府県警察に配備され、現役で稼働中のヘリコプターは以下のとおりである(2023年6月現在)。

都道府県警察航空隊の配備機一覧
管区都道府県愛称機体番号機種基地所有備考
北海道警察航空隊北海道警察だいせつ1JA04HPAW139札幌飛行場警察庁
だいせつ2JA05HPAW139
だいせつ3JA01HPベル 412EPテロ対策機
ぎんれい1JA03HPA109E
ぎんれい2JA21DKH135帯広空港帯広分遣隊
東北管区警察局青森県警察航空隊青森県警察はくちょうJA826Aベル 412EP青森空港警察庁
岩手県警察航空隊岩手県警察ぎんがJA412XSUBARU BELL 412EPX花巻空港警察庁
秋田県警察航空隊秋田県警察やまどりJA005YBK117D-3秋田空港警察庁
宮城県警察航空隊宮城県警察くりこまJA109MA109E霞目飛行場警察庁
まつしまJA139MAW139
山形県警察航空隊山形県警察がっさんJA80GTA109E山形空港警察庁
福島県警察航空隊福島県警察ばんだいJA110BA109E福島県警察ヘリポート警察庁
あずま2JA139FAW139保管
警視庁航空隊警視庁おおとり1JA11MPEC155-B1立川飛行場東京都
おおとり2JA12MPAW139東京ヘリポート東京都
おおとり3JA13MPAW139立川飛行場警察庁
おおとり4JA14MPAB139東京ヘリポート東京都
おおとり5JA15MPEC155-B1立川飛行場東京都
おおとり6JA19MPSUBARU BELL 412EPX警察庁
おおとり7JA17MPベル 412EP警察庁
おおとり8JA18MPベル 412EP警察庁テロ対策機
はやぶさ1JA36MPAW109S東京都黒色
はやぶさ2JA32MPEC135-T2+警察庁
はやぶさ3JA35MPAW109S東京都黒色
はやぶさ4JA34MPA109E警察庁
おおぞら1JA03MPH215(AS332L1 Super Puma)東京ヘリポート東京都
おおぞら2JA04MPH225(EC225LP Super Puma Mk2+)立川飛行場警察庁2022年5月更新

(ベルーガ)

関東管区警察局茨城県警察航空隊茨城県警察ひばりJA18RKH135百里飛行場警察庁
栃木県警察航空隊栃木県警察) なんたいJA15TPBELL 429宇都宮飛行場警察庁2022年4月更新
群馬県警察航空隊群馬県警察あかぎJA01GPA109E群馬ヘリポート警察庁
埼玉県警察航空隊埼玉県警察さきたまJA310AEC135-P2+入間基地埼玉県
むさしJA634PBK117D-3警察庁2022年1月更新
みつみねJA323NA109E警察庁
千葉県警察航空隊千葉県警察かとり1JA91CPAW139成田国際空港警察庁
かとり2JA92CPH1352022年1月更新
かとり3JA93CPBK117C-2
神奈川県警察航空隊神奈川県警察はまかぜJA14KPA109SP横浜ヘリポート警察庁
おおやまJA16KPBK117C-2
たんざわJA03KPAS365-N3
かもめJA07KPベル 206L-4神奈川県
新潟県警察航空隊新潟県警察ときかぜJA01NPベル 412EP新潟空港警察庁
はるかぜJA02NPA109E
こしかぜJA13NPAW139
山梨県警察航空隊山梨県警察はやてJA110Yベル 412EP山梨県警察ヘリポート警察庁
長野県警察航空隊長野県警察やまびこ1JA01EEAW139松本空港警察庁2023年2月更新
やまびこ2JA220EAW139
静岡県警察航空隊静岡県警察) ふじ2JA23PCAW139静浜基地警察庁納入待ち
ふじ3JA13PCA109E
中部管区警察局富山県警察航空隊富山県警察つるぎJA139TAW139富山空港警察庁
石川県警察航空隊石川県警察いぬわしJA14PEBell 429石川県警察ヘリポート警察庁2022年4月更新
福井県警察航空隊福井県警察くずりゅうJA110KEC135-T2+福井空港警察庁
岐阜県警察航空隊岐阜県警察らいちょう2JA110Gベル 412EP岐阜基地警察庁
愛知県警察航空隊愛知県警察あけぼのJA21APベル 412EP名古屋飛行場警察庁テロ対策機
あさやけ1JA11APBK117C-2
あさやけ2JA6816BK117C-1
あかつきJA6922A109E
三重県警察航空隊三重県警察いせJA06MEA109E津市伊勢湾ヘリポート警察庁
すずかJA10MEA109E
近畿管区警察局滋賀県警察航空隊滋賀県警察いぶきJA110PA109E滋賀県警察ヘリポート警察庁
京都府警察航空隊京都府警察みやこJA6004A109E京都府警察ヘリポート警察庁
へいあんJA6818BK117C-1
大阪府警察航空隊大阪府警察つばさJA10PDEC135-P2+八尾空港警察庁
はやかぜJA6523AW139
ちはやJA20PDH1352022年3月更新
まいしまJA6868ベル 412EPテロ対策機
おおわしJA6196AW139
せんなりJA6956ベル 206L-4大阪府
兵庫県警察航空隊兵庫県警察ひよどりJA110Hアグスタ A109E Power大阪国際空港警察庁
フェニックスJA155Hエアバス・ヘリコプターズ EC155B1
奈良県警察航空隊奈良県警察あすかJA110AA109E奈良県ヘリポート警察庁
和歌山県警察航空隊和歌山県警察きのくにJA03WPEC135-P3南紀白浜空港警察庁
中国管区警察局鳥取県警察航空隊鳥取県警察さきゅうJA39GEA109SP鳥取空港警察庁
島根県警察航空隊島根県警察ちどりJA02PCA109E出雲空港警察庁
岡山県警察航空隊岡山県警察わしゅうJA110WA109E岡南飛行場警察庁
広島県警察航空隊広島県警察みやじま2JA22HPA109E広島ヘリポート警察庁
みやじま1JA11HPAS365-N3
山口県警察航空隊山口県警察あきよしJA10YPA109E山口宇部空港警察庁
四国管区警察局徳島県警察航空隊徳島県警察しらさぎJA110TEC135-T2+徳島空港警察庁
香川県警察航空隊香川県警察さぬきJA110UEC155-B1高松空港警察庁
愛媛県警察航空隊愛媛県警察いしづちJA03EPA109E松山空港警察庁
高知県警察航空隊高知県警察くろしおJA02KPEC135-T2+高知空港警察庁
九州管区警察局福岡県警察航空隊福岡県警察とびうめ1JA03FPAS365-N3奈多ヘリポート警察庁
とびうめ2JA01FPベル 412EPテロ対策機
さちかぜJA02FPEC135-P2+
ふくたかJA002PEC225LP Super Puma Mk2+国境離島警備隊
佐賀県警察航空隊佐賀県警察かささぎJA023GA109SP佐賀空港警察庁
長崎県警察航空隊長崎県警察さいかいJA03NPベル 429長崎空港警察庁
熊本県警察航空隊熊本県警察おおあそJA010KEC135-P3熊本空港警察庁
大分県警察航空隊大分県警察ぶんごJA971VA109E大分空港警察庁
宮崎県警察航空隊宮崎県警察ひむかJA110MEC135-T2+宮崎空港警察庁
鹿児島県警察航空隊鹿児島県警察はやとJA15KPAW139鹿児島空港警察庁
沖縄県警察航空隊沖縄県警察しまもりJA01RPAW139那覇空港警察庁
なんぷうJA22RPA109E
うりずんJA001PEC225LP Super Puma Mk2+国境離島警備隊

事故・インシデント

  • 2002年6月15日、上空から不審者の追跡をしていた新潟県警ヘリコプター「ゆきかぜ」(ベル206L-3)が墜落した。搭乗者3人のうち県警航空隊長が左腕骨折などで3か月の重傷、操縦していた副操縦士と整備係員が軽いけがを負った。立ち木に接触したと考えられている。
  • 2005年5月3日、交通渋滞の状況を調べていた静岡県警ヘリコプター「ふじ1号」(A109K2)が住宅街に墜落、炎上した。搭乗者5人全員が死亡したほか、アパートの屋根の一部を壊した。事故原因は燃料切れとされている。
  • 2020年2月1日朝、会津[註 1]から福島空港[7]移植のための心臓を運んでいた[8]福島県警ヘリコプター「あづま2」(AW139)が郡山市内の田に墜落・横転した。移植用心臓は福島空港からチャーター機羽田空港に移送され、東大病院へ運ばれる予定であった。事故後心臓はパトカーで福島空港に運ばれ、当初予定のチャーター機で羽田に移送、東京消防庁のヘリで東大病院に届けられたが、到着が遅れたこと等で移植した場合に心臓がうまく動くか保証できないと医師が判断し、移植は断念された[7]。搭乗者7人(警察官3人・整備士2人・医療関係者2人[8])全員が怪我を負い、うち福島県警地域企画課長や男性医師らの4人が重傷だった[7]

脚注

注釈

  1. ^ 会津若松市竹田綜合病院で摘出された心臓をヘリポートのある会津中央病院から、福島空港に向けて搬送する途中だった

出典

参考文献

  • 警察庁警察史編さん委員会 編『日本戦後警察史』警察協会、1977年。 NCID BA59637079 

関連項目

外部リンク