1961年イタリアグランプリ

1961年イタリアグランプリ (1961 Italian Grand Prix) は、1961年のF1世界選手権第7戦として、1961年9月10日モンツァ・サーキットで開催された。

イタリア 1961年イタリアグランプリ
レース詳細
1961年F1世界選手権全8戦の第7戦
モンツァ・サーキット(バンク併用、1955–1961)
モンツァ・サーキット(バンク併用、1955–1961)
日程1961年9月10日
正式名称XXXII Gran Premio d'Italia
開催地モンツァ・サーキット
イタリアの旗 イタリア モンツァ
コース恒久的レース施設
コース長10.000 km (6.213 mi)
レース距離43周 430.000 km (267.189 mi)
決勝日天候晴 (ドライ)
ポールポジション
ドライバーフェラーリ
タイム2.46.3
ファステストラップ
ドライバーイタリアの旗 ジャンカルロ・バゲッティフェラーリ
タイム2.48.4 (2周目)
決勝順位
優勝フェラーリ
2位ポルシェ
3位クーパー-クライマックス

本レースはF1の歴史の中で最も恐ろしい事故の一つであった。2周目の終わりに差し掛かったパラボリカの手前でヴォルフガング・フォン・トリップスフェラーリ・156がコントロールを失い、フォン・トリップスと観客14人が亡くなった。

レース概要 編集

本レースを迎え、ドライバーズチャンピオン争いはフェラーリヴォルフガング・フォン・トリップス(32点)とフィル・ヒル(29点)の2人に絞られた[1]

前年に引き続き、ロードコースとバンクコースの併用で10kmのレイアウトを使用した。地元レースとなるフェラーリはレギュラーのフォン・トリップス、フィル・ヒル、リッチー・ギンサーに加え、メキシコ出身の新人リカルド・ロドリゲスを起用した[1]。決勝出走の時点で19歳208日のロドリゲスは、1980年カナダGPマイク・サックウェルが19歳182日に更新するまで19年間F1最年少出走記録を保持した[2]

本レースには37台がエントリーし33台が出場したため、決勝に進出する32台のグリッドを予選タイムの順に並べることになった。これに加え、予選2位のタイムの115%以内を記録できないドライバーは決勝に進出できないルールも設けられた。この方式は、1996年-2002年及び2011年以降に導入されている107%ルールに近い。予選は32台が2位のロドリゲスと115%以内のタイムで予選を通過し、唯一115%を超えたアンドレ・ピレットが予選落ちとなった。フォン・トリップスは生涯初(そして唯一)のポールポジションを獲得した。前戦ドイツGPまで5戦連続ポールポジションだったフィル・ヒルは3位となった[3]BRMグラハム・ヒルは自製V型8気筒エンジンを搭載したP57で5位となったが、決勝は古いクライマックスFPF(直列4気筒)搭載のP48/57で臨む[4]

スタートでフォン・トリップスがわずかに出遅れ、ギンサーとフィル・ヒルが先行する。1周目を終えた段階で、フィル・ヒル、ギンサー、フォン・トリップス、スターリング・モス、ロドリゲス、ジム・クラークジャック・ブラバムの7台が0.9秒差にひしめくが、モスはすぐに先頭集団から脱落し、ブラバムも先頭集団についていくのが精一杯だった。2周目の裏ストレート後半、スリップストリーム合戦を繰り広げるフェラーリ4台の中に1台混じったロータスのクラークが大胆にもフォン・トリップスの真後ろから抜け出して追い抜きにかかるも両者は接触する。フォン・トリップスは230km/hでコントロールを失い、コース左側の狭いグリーンを突っ切って防護柵に激しくクラッシュ、マシンは空中で複雑な捻りを加えられ、再びコース上に跳ね返された。そのすぐ脇でクラークのロータスがグリーン上を狂ったようにスピンしていった。あたり一面の埃が収まると、コース中央に裏返ったフェラーリの残骸と微動だにしないフォン・トリップスの姿があった。当時はシートベルトなどなく、フォン・トリップスはマシンが宙を舞った際に振り落とされ、コース上を滑走しながら息絶えた。クラークは無事だったが、柵越しに観戦していた14名の観客もフォン・トリップス同様に命を落とした。レースはそのまま続行され、ロドリゲスとギンサーはエンジンのトラブルでリタイアし、フェラーリで唯一生き残ったフィル・ヒルが優勝した。この優勝でフィル・ヒルがアメリカ人初のドライバーズチャンピオンとなったが、チームメイトのフォン・トリップスが亡くなったことによりもたらされた苦く悲しい栄冠でもあった[5]

エントリーリスト 編集

チームNo.ドライバーコンストラクターシャシーエンジン
スクーデリア・フェラーリ SpA SEFAC2 フィル・ヒルフェラーリ156フェラーリ Tipo178 1.5L V6
4 ヴォルフガング・フォン・トリップス
6 リッチー・ギンサー
8 リカルド・ロドリゲス
クーパー・カー・カンパニー10 ジャック・ブラバムクーパーT58クライマックス FWMV 1.5L V8
12 ブルース・マクラーレンT55クライマックス FPF 1.5L L4
JBW カーズ14 ブライアン・ネイラーJBW61クライマックス FPF 1.5L L4
ティム・パーネル16 ティム・パーネルロータス18クライマックス FPF 1.5L L4
ジェリー・アシュモア18 ジェリー・アシュモアロータス18クライマックス FPF 1.5L L4
UDT・レイストール・レーシングチーム20 ヘンリー・テイラーロータス18/21クライマックス FPF 1.5L L4
22 マステン・グレゴリー
オーウェン・レーシング・オーガニゼーション24 グラハム・ヒルBRMP48/57
P57 1
クライマックス FPF 1.5L L4
BRM P56 1.5L V8 1
26 トニー・ブルックスP48/57クライマックス FPF 1.5L L4
R.R.C. ウォーカー・レーシングチーム28 スターリング・モスロータス21クライマックス FPF 1.5L L4
フレッド・トラック・カーズ30 ジャック・フェアーマンクーパーT45クライマックス FPF 1.5L L4
スクーデリア・サント・アンブロース32 ジャンカルロ・バゲッティフェラーリ156フェラーリ Tipo178 1.5L V6
34 アルフォンソ・シール 2クーパーT45クライマックス FPF 1.5L L4
チーム・ロータス36 ジム・クラークロータス21クライマックス FPF 1.5L L4
38 イネス・アイルランド18/21
ヨーマン・クレジット・レーシングチーム40 ロイ・サルヴァドーリクーパーT53クライマックス FPF 1.5L L4
42 ジョン・サーティース
ポルシェ・システム・エンジニアリング44 ヨアキム・ボニエポルシェ718ポルシェ 547/3 1.5L F4
46 ダン・ガーニー
エドガー・バース 3
スクーデリア・セレニッシマ48 モーリス・トランティニアンクーパーT51マセラティ 6-1500 1.5L L4
50 ニーノ・ヴァッカレッラデ・トマソF1アルファロメオ ジュリエッタ 1.5L L4
スクーデリア・セッテコリ52 ロベルト・リッピデ・トマソF1オスカ 372 1.5L L4
イソベーレ・デ・トマソ54 ロベルト・ブッシネッロデ・トマソF1アルファロメオ ジュリエッタ 1.5L L4
スクーデリア・コロニア56 ヴォルフガング・ザイデルロータス18クライマックス FPF 1.5L L4
70 ミハエル・マイ 2
ペスカーラ・レーシングチーム58 レナート・ピロッキ
クーパーT45マセラティ 6-1500 1.5L L4
スクーデリア・セントロ・スッド マッシモ・ナティリ 4
62 ロレンツォ・バンディーニクーパーT53マセラティ 6-1500 1.5L L4
H&L モータース60 ジャッキー・ルイスクーパーT53クライマックス FPF 1.5L L4
スクーデリア・ドロミーティ64 エルネスト・プリノス 2ロータス18クライマックス FPF 1.5L L4
メナート・ボッファ66 メナート・ボッファクーパーT45クライマックス FPF 1.5L L4
エキップ・ナツィオナーレ・ベルゲ68 アンドレ・ピレットエメリソン61クライマックス FPF 1.5L L4
ガエターノ・スタルラッバ72 ガエターノ・スタルラッバロータス18マセラティ 6-1500 1.5L L4
エキュリー・マールスベルゲン74 カレル・ゴダン・ド・ボーフォールポルシェ718ポルシェ 547/3 1.5L F4
ソース:[6]
追記
  • タイヤは全車ダンロップ
  • ^1 - BRMはG.ヒルのみ予選で自製V8エンジンを搭載したP57を走らせた(決勝は2台ともP48/57-クライマックス)
  • ^2 - エントリーしたが出場せず
  • ^3 - 予備登録、第3ドライバー
  • ^4 - ナティリは練習走行でピロッキのマシンをドライブしたのみ

結果 編集

予選 編集

順位No.ドライバーコンストラクタータイムグリッド
14 ヴォルフガング・フォン・トリップスフェラーリ2:46.31
28 リカルド・ロドリゲスフェラーリ2:46.4+ 0.12
36 リッチー・ギンサーフェラーリ2:46.8+ 0.53
42 フィル・ヒルフェラーリ2:47.2+ 0.94
524 グラハム・ヒルBRM-クライマックス2:48.7+ 2.45
632 ジャンカルロ・バゲッティフェラーリ2:49.0+ 2.76
736 ジム・クラークロータス-クライマックス2:49.2+ 2.97
844 ヨアキム・ボニエポルシェ2:49.6+ 3.38
938 イネス・アイルランドロータス-クライマックス2:50.3+ 4.09
1010 ジャック・ブラバムクーパー-クライマックス2:51.6+ 5.310
1128 スターリング・モスロータス-クライマックス2:51.8+ 5.511
1246 ダン・ガーニーポルシェ2:52.0+ 5.712
1326 トニー・ブルックスBRM-クライマックス2:52.2+ 5.913
1412 ブルース・マクラーレンクーパー-クライマックス2:53.4+ 7.114
1574 カレル・ゴダン・ド・ボーフォールポルシェ2:53.8+ 7.515
1660 ジャッキー・ルイスクーパー-クライマックス2:54.0+ 7.716
1722 マステン・グレゴリーロータス-クライマックス2:55.2+ 8.917
1840 ロイ・サルヴァドーリクーパー-クライマックス2:55.2+ 8.918
1942 ジョン・サーティースクーパー-クライマックス2:55.6+ 9.319
2050 ニーノ・ヴァッカレッラデ・トマソ-アルファロメオ2:56.0+ 9.720
2162 ロレンツォ・バンディーニクーパー-マセラティ2:57.7+ 11.421
2248 モーリス・トランティニアンクーパー-マセラティ2:58.7+ 12.422
2320 ヘンリー・テイラーロータス-クライマックス3:00.6+ 14.323
2454 ロベルト・ブッシネッロデ・トマソ-アルファロメオ3:01.7+ 15.424
2518 ジェリー・アシュモアロータス-クライマックス3:03.0+ 16.725
2630 ジャック・フェアーマンクーパー-クライマックス3:04.8+ 18.526
2716 ティム・パーネルロータス-クライマックス3:05.7+ 19.427
2856 ヴォルフガング・ザイデルロータス-クライマックス3:06.0+ 19.728
2958 レナート・ピロッキクーパー-マセラティ3:06.5+ 20.229
3072 ガエターノ・スタルラッバロータス-マセラティ3:07.9+ 21.630
3114 ブライアン・ネイラーJBW-クライマックス3:08.1+ 21.831
3252 ロベルト・リッピデ・トマソ-オスカ3.08.9+ 22.632
3368 アンドレ・ピレットエメリソン-マセラティ3:11.6+ 25.3DNQ
ソース:[7][8]
追記

決勝 編集

順位No.ドライバーコンストラクター周回数タイム/リタイア原因グリッドポイント
12 フィル・ヒルフェラーリ432:03:13.049
246 ダン・ガーニーポルシェ43+ 31.2126
312 ブルース・マクラーレンクーパー-クライマックス43+ 2:28.4144
460 ジャッキー・ルイスクーパー-クライマックス43+ 2:40.4163
526 トニー・ブルックスBRM-クライマックス43+ 2:40.5132
640 ロイ・サルヴァドーリクーパー-クライマックス42+ 1 Lap181
774 カレル・ゴダン・ド・ボーフォールポルシェ41+ 2 Laps15
862 ロレンツォ・バンディーニクーパー-マセラティ41+ 2 Laps21
948 モーリス・トランティニアンクーパー-マセラティ41+ 2 Laps22
1016 ティム・パーネルロータス-クライマックス40+ 3 Laps27
1120 ヘンリー・テイラーロータス-クライマックス39+ 4 Laps23
1258 レナート・ピロッキクーパー-マセラティ38+ 5 Laps29
Ret28 スターリング・モスロータス-クライマックス36ホイールベアリング11
Ret6 リッチー・ギンサーフェラーリ23エンジン3
Ret72 ガエターノ・スタルラッバロータス-マセラティ19エンジン30
Ret44 ヨアキム・ボニエポルシェ14サスペンション8
Ret8 リカルド・ロドリゲスフェラーリ13燃料システム2
Ret32 ジャンカルロ・バゲッティフェラーリ13エンジン6
Ret50 ニーノ・ヴァッカレッラデ・トマソ-アルファロメオ13エンジン20
Ret22 マステン・グレゴリーロータス-クライマックス11サスペンション17
Ret24 グラハム・ヒルBRM-クライマックス10エンジン5
Ret10 ジャック・ブラバムクーパー-クライマックス8オーバーヒート10
Ret14 ブライアン・ネイラーJBW-クライマックス6エンジン31
Ret38 イネス・アイルランドロータス-クライマックス5シャシー9
Ret30 ジャック・フェアーマンクーパー-クライマックス5エンジン26
Ret42 ジョン・サーティースクーパー-クライマックス2アクシデント19
Ret4 ヴォルフガング・フォン・トリップスフェラーリ1接触による事故死1
Ret36 ジム・クラークロータス-クライマックス1接触7
Ret54 ロベルト・ブッシネッロデ・トマソ-アルファロメオ1エンジン24
Ret56 ヴォルフガング・ザイデルロータス-クライマックス1エンジン28
Ret52 ロベルト・リッピデ・トマソ-オスカ1エンジン32
Ret18 ジェリー・アシュモアロータス-クライマックス0アクシデント25
DNQ68 アンドレ・ピレットエメリソン-マセラティ予選不通過
DNS46 エドガー・バースポルシェ練習走行のみ
DNS58 マッシモ・ナティリクーパー-マセラティ練習走行のみ(ピロッキのマシンをドライブ)
ソース:[9]
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第7戦終了時点のランキング 編集

  • : トップ5のみ表示。ベスト5戦のみがカウントされる。ポイントは有効ポイント、括弧内は総獲得ポイント。

脚注 編集

  1. ^ a b (林信次 1997, p. 15)
  2. ^ 現在の最年少出走記録はマックス・フェルスタッペン2015年オーストラリアGPで記録した17歳165日。この翌年からスーパーライセンスの発給条件が18歳以上となったため、これ以上の更新はできない。
  3. ^ (林信次 1997, p. 15-16)
  4. ^ (林信次 1997, p. 16,23)
  5. ^ (林信次 1997, p. 16-18)
  6. ^ Italy 1961 - Race entrants”. statsf1.com. 2018年4月8日閲覧。
  7. ^ Collantine, Keith (2011年9月10日). “50 years ago today: F1’s worst tragedy at Monza” (英語). www.f1fanatic.co.uk. 2017年11月19日閲覧。
  8. ^ Italy 1961 - Qualifications”. statsf1.com. 2018年4月10日閲覧。
  9. ^ 1961 Italian Grand Prix”. formula1.com. 2014年12月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年9月20日閲覧。

参照文献 編集

  • 林信次『F1全史 1961-1965』ニューズ出版、1997年。ISBN 4-938495-09-0 

関連項目 編集

外部リンク 編集

前戦
1961年ドイツグランプリ
FIA F1世界選手権
1961年シーズン
次戦
1961年アメリカグランプリ
前回開催
1960年イタリアグランプリ
イタリアグランプリ次回開催
1962年イタリアグランプリ