臨時会

日本の国会の会期の一つ

臨時会(りんじかい)は、国会の会期の一種で、常会特別会以外に、臨時に召集される国会のこと。日本国憲法第53条に規定されている。

一般にマスメディア等では臨時国会と呼ばれている。

地方公共団体の議会 編集

なお、地方公共団体の議会についても臨時会という用語が使われる(地方自治法第102条)。こちらは、必要がある場合において、その事件に限り招集されるものである。

概説 編集

必要に応じて国会が活動できる可能性を認める必要があるため常会とは別に臨時会が認められている[1]

日本国憲法第53条は前段で内閣は国会の臨時会の召集を決定することができるとして内閣の職権による臨時会について定めている一方、後段では、衆議院参議院のどちらか片方でも総議員の4分の1以上の要求があれば内閣は臨時会の召集を決定しなければならないとして、国会側の要求に基づく臨時会についても定めている[2]

議員による要求の要件を「総議員の4分の1」としている理由は、議院における一定数以上の少数派意見を尊重する趣旨であるが、参議院では野党側が多数のねじれ国会の場合もあり、このようなことから参議院においては少数派に限らず参議院の意思に基づいて臨時会召集の要求を認めるという意味もある[2][3][1]

衆議院の解散による衆議院議員総選挙によらない内閣総辞職に伴う内閣総理大臣指名選挙は、閉会中であれば臨時会が召集されて行われる。衆議院解散による総選挙が行われた場合は、30日以内に特別会が召集され、そこで内閣総理大臣指名選挙が行われるため、臨時会とは区別される。

召集 編集

国事行為 編集

国会の召集は天皇の国事行為である(日本国憲法第7条第2号)。

憲法は内閣に臨時会の実質的決定権を認めている(日本国憲法第53条)。

憲法第53条に基づく臨時会召集 編集

内閣は必要と認める時期に国会の臨時会の召集を決定することができる。

また、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は召集を決定しなくてはならない(憲法第53条)。この場合には、臨時会召集要求書が議長から内閣へ即日送付されることになっている(衆議院先例集20)[4][1]。内閣が召集しないときには臨時会召集要求補完書が送付される[4]。なお、国会閉会中に要求しなければならないわけではなく、国会開会中でも国会閉会間近になった時に召集要求されることもある。

ただ、当該要求があってからいつまでに召集を決定しなければならないかの具体的期限を定めた法規定がないため、常会が近い場合などの状況により事実上見送りとなることもある。学説では「2~3週間(14日後から21日後まで)」と指摘するものがある[5]

議院の総議員の4分の1以上の要求があった例は2022年まで40回ある。その内37回については召集されたが、2003年11月27日、2005年11月1日及び2015年10月21日の要求については、要求があったものの臨時会は召集されなかった[注 1]。政府見解では、合理的な期間内に常会が召集される場合には、臨時会を召集しなくても憲法違反にはならないとしている[6]。議院の総議員の4分の1以上の要求による臨時会召集について「国会を召集しなくてはならないとするのであって、その国会が常会であるか、臨時会であるか、または特別会であるかは、そのいずれであっても、国会としての機能がまったく同じである以上、本条のあえて問題とするところではない」とする学説もある[7]。その場合、臨時国会召集要求書提出の代表者に対して内閣官房長官から「常会を召集することを決定したので了承願う」旨の書面が送付されている。

要求から最も遅かった召集は、1970年6月1日に要求されたのに対して第3次佐藤内閣が176日後の11月24日に召集した第64回国会の例である[8]。また、日本国憲法制定に大きく関わったGHQの下では、1950年7月31日に要求されたのに対して第3次吉田内閣が113日後の11月21日に召集した第9回国会の例がある[注 2]

要求から最も早く臨時会が召集された例として、1986年5月26日に要求がされたのに対して第2次中曽根内閣が7日後の6月2日に召集した第105回国会の例がある。この臨時会では冒頭で衆議院解散死んだふり解散)となって衆参同日選挙となった。なお憲法第53条に基づく臨時会召集要求は野党議員によるものが殆どであるが、この1986年5月26日の臨時会召集要求は与党議員による臨時会召集要求によるものである。与党議員による臨時会召集要求は1986年5月26日によるものが初めてであり2022年時点では唯一である。

衆議院解散が行われなかった臨時会の中で要求から最も早く臨時会が召集された例として、1977年11月28日に要求がされたのに対して福田赳夫内閣が9日後の12月7日に召集した第83回国会の例がある。

なお、憲法第53条の規定ではいずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は召集を決定しなくてはならないが、国会会期日数(会期延長を含む)については後述のように国会法第11条・第13条により衆議院多数派が事実上の決定をし、国会の議題や採決案件[注 3]は各議院の多数派が決定することになる。そのため、憲法第53条の規定で野党の要求によって内閣が国会を召集させることは義務であっても、野党勢力が各議院の過半数を下回っている限りは野党の要求通りの国会会期日数や議題や採決案件[注 3]を設定するという形で野党が国会運営の主導権を与えることまでを法で義務付けられるわけではない(なお、参議院で野党が多数派のねじれ国会では国会会期日数では衆議院多数派の意向に反して設定することはできないものの、参議院で議題や採決案件を設定するという形で野党が参議院運営を主導することは可能である)。

また、臨時会召集要求がされていても、内閣による衆議院解散権が制限されているわけではないため、召集された臨時会で衆議院解散(過去に8回)が行われたことがあり、中には召集日の解散する冒頭解散(過去に3回)が行われたこともある。また2017年6月30日に召集要求がされたのに対して第3次安倍内閣が90日後の2017年9月28日に第194回国会を召集したその当日に衆議院解散(冒頭解散)となり、開会された上で審議される国会が実質的に召集されたのは要求から123日後の11月1日の第195回国会になった例もある。

憲法第53条に基づく臨時会召集要求の一覧 編集

憲法第53条に基づく臨時会召集要求の一覧
内閣要求日召集日召集
までの
日数
国会会期
日数
047芦田内閣1948年7月27日1948年10月11日76日後第3回国会51日間
048第2次吉田内閣1949年7月7日1949年10月25日110日後第6回国会40日間
049第3次吉田内閣1950年7月31日
[注 4]
1950年11月21日113日後第9回国会19日間
049第3次吉田内閣1951年7月17日1951年8月16日30日後第11回国会3日間
051第5次吉田内閣1953年8月10日
[注 4]
1953年10月29日80日後第17回国会10日間
051第5次吉田内閣1953年11月10日1953年11月30日20日後第18回国会9日間
053第2次鳩山一郎内閣1955年8月18日
[注 5]
1955年11月12日96日後第23回国会25日間
054第3次鳩山一郎内閣1956年7月11日1956年11月22日124日後第25回国会32日間
056第1次岸内閣1957年7月2日1958年11月1日122日後第27回国会14日間
057第2次岸内閣1958年8月1日1958年9月29日59日後第30回国会70日間
057第2次岸内閣1959年8月21日1959年10月26日66日後第33回国会63日間
058第1次池田内閣1960年8月11日1960年10月17日67日後第36回国会8日間
[注 6]
059第2次池田内閣1961年7月14日1961年9月25日73日後第39回国会37日間
059第2次池田内閣1962年9月12日1962年12月8日87日後第42回国会16日間
059第2次池田内閣1963年8月14日1963年10月15日62日後第44回国会9日間
[注 6]
060第3次池田内閣1964年7月24日1964年11月9日108日後第47回国会40日間
061第1次佐藤内閣1966年9月1日1966年11月30日90日後第53回国会21日間
061第1次佐藤内閣1967年10月5日1967年12月4日60日後第57回国会20日間
062第2次佐藤内閣1968年10月18日1968年12月10日53日後第60回国会12日間
062第2次佐藤内閣1969年9月17日1969年11月29日73日後第62回国会4日間
[注 6]
063第3次佐藤内閣1970年6月1日1970年11月24日176日後第64回国会25日間
064第1次田中角栄内閣1972年10月2日1972年11月24日25日後第70回国会18日間
[注 6]
065第2次田中角栄内閣1974年10月14日1974年12月9日56日後第74回国会17日間
067福田赳夫内閣1977年11月28日1977年12月7日9日後第83回国会4日間
072第2次中曽根内閣1986年5月26日1986年6月2日7日後第105回国会1日間
[注 7]
081村山内閣1995年8月9日1995年9月27日51日後第134回国会78日間
082第1次橋本内閣1996年9月9日1996年9月27日18日後第137回国会1日間
[注 7]
086第2次森内閣2000年7月11日2000年7月28日17日後第149回国会13日間
087第1次小泉内閣2001年8月29日2001年9月27日29日後第153回国会72日間
088第2次小泉内閣2003年11月27日
[注 4]
2004年1月19日53日後第159回国会
[注 8]
72日間
088第2次小泉内閣2004年9月16日2004年10月12日26日後第161回国会53日間
089第3次小泉内閣2005年11月1日
[注 4]
2006年1月20日80日後第164回国会
[注 8]
150日間
093鳩山由紀夫内閣2009年10月8日2009年10月26日18日後第173回国会40日間
096第2次安倍内閣2013年9月25日2013年10月15日20日後第185回国会55日間
097第3次安倍内閣2015年10月21日2016年1月4日75日後第190回国会
[注 8]
150日間
097第3次安倍内閣2017年6月22日2017年9月28日98日後第194回国会1日間
[注 7]
098第4次安倍内閣2020年7月31日2020年9月16日47日後第202回国会3日間
099菅義偉内閣2021年7月16日2021年10月4日80日後第205回国会11日間
[注 6]
101第2次岸田内閣2022年8月18日2022年10月3日47日後第210回国会69日間

国会法第2条に基づく臨時会召集 編集

上記憲法第53条の規定に基づく任意の召集のほかに、国会法に基づく義務的な臨時会の召集規定もあり、任期満了による衆議院議員総選挙または参議院議員通常選挙から30日以内に開かなければならないとされている(国会法第2条の3各項本文)が、その期間内に常会又は特別会が召集された場合は臨時会を召集する必要はない(同各項ただし書)。

また、その30日の期間内に他院の任期満了総選挙・通常選挙が行われる場合も、結局は当該他院の選挙後に臨時会が召集されることとなるため、当初の臨時会を召集する必要はない(前同)。

会期 編集

会期は両議院一致の議決で定めるが、両院で議決が異なった場合又は参議院が議決しない場合は衆議院の議決による(国会法第11条・第13条、衆議院の優越)。会期延長は2回まで可能(国会法第12条)。

臨時会は、常会(または常会に相当する特別会)が終了しても政権運営のために必要な議題が消化できていない場合に、10月から12月頃まで開会されることが多く、「秋の臨時国会」などと言われる。2015年には秋の臨時国会は開かれなかったが、異例とされた。

記録 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ この3回については、要求の翌年1月に常会が召集された。2003年11月27日の要求については53日後の2004年1月19日からの常会、2005年11月1日の要求については80日後の2006年1月20日からの常会、2015年10月21日の要求については76日後の2016年1月4日からの常会がそれぞれ召集されている。
  2. ^ GHQの下では要求から30日以上経過して臨時会を召集した例としてそれ以外には、1948年7月27日に要求されたのに対して芦田内閣が76日後の10月11日に召集した第3回国会の例、1949年7月7日に要求されたのに対して第2次吉田内閣が110日後の10月25日に召集した第6回国会の例がある。
  3. ^ a b 国会運営の過去の慣例から、衆議院における内閣不信任決議案、両院における常任委員長の解任決議、議長や副議長の不信任決議は、議院多数派ではなくても議院規則に基づいて一定の賛同者が得られれば、本会議で採決する慣例となっている。
  4. ^ a b c d 国会会期最終日の要求。
  5. ^ 国会会期最終日から12日前の要求。
  6. ^ a b c d e 会期中での衆議院解散。
  7. ^ a b c 会期冒頭での衆議院解散。
  8. ^ a b c 臨時会に代わる常会。

出典 編集

  1. ^ a b c 樋口陽一・中村睦男・佐藤幸治・浦部法穂著 『注解法律学全集3 憲法III(第41条~第75条)』 青林書院、1998年、106頁
  2. ^ a b 佐藤功著 『新版 憲法(下)』 有斐閣、1984年、711頁
  3. ^ 伊藤正己著 『憲法 第三版』 弘文堂、1995年、452頁
  4. ^ a b 佐藤功著 『新版 憲法(下)』 有斐閣、1984年、713頁
  5. ^ “臨時国会ようやく 政権拒み3ヵ月、28日召集、少数派の発言権、置き去り”. 朝日新聞. (2017年9月16日) 
  6. ^ 参議院外交防衛委員会2003年12月16日における内閣法制局長官の答弁(『参議院外交防衛委員会(第158回国会閉会後)会議録第1号』p.24.)
  7. ^ 宮澤俊義・芦部信喜補訂『全訂 日本国憲法』日本評論社、1978年、401頁
  8. ^ 内閣法制局 情報公開資料 著 『憲法関係答弁例集(3)』 信山社、2018年、286頁

関連項目 編集