大分弁

大分県で話される日本語の方言

大分弁(おおいたべん)又は大分方言(おおいたほうげん)は、九州地方大分県で話されている日本語の方言である。

分類 編集

大分弁(大分方言)は、以下の分類体系に位置づけられる。

概要・区画 編集

大分弁は全体として中国方言四国方言との共通性が目立ち、九州方言の中ではやや異質な方言であると言える。例えば、肥筑方言に特徴的な接続助詞「ばってん」、形容詞カ語尾終助詞「ばい」「たい」を使用しない(日田市などの西部を除く)。アクセントは外輪東京式アクセントである。

大分県の方言は、音韻や語法、文法の違いから、以下の5つの小区分を立てることができる[1]

  1. 東北海岸方言(国東半島東部)
  2. 南部海岸方言(津久見市南部~佐伯市豊後水道沿岸部)
  3. 西部方言日田市玖珠郡の大部分・中津市山国町)
  4. 北部方言(1の地域を除く別府市以北)
  5. 南部方言(2の地域を除く大分市以南)

このうち西部方言には肥筑方言との共通性が見られ、終助詞の「ばい・たい」、準体言助詞の「~つ(と)」が分布する。特に日田地方の方言(日田弁)は、逆接の接続詞「ばってん」の使用、「よい・ない」の2語の終止形のカ語尾アクセント体系でも肥筑方言と共通する上、多くの語彙を共有する。

東北海岸方言と南部海岸方言は、音韻的な特徴が共通している[2]

音韻 編集

子音の特徴 編集

「て」を「ちぇ」、「で」を「ぢぇ/じぇ」と言う傾向があり、大分弁の特徴である。特に、助詞の「て」を「ちぇ」、あるいは「ち」と言う[3](例)あん2人結婚したっちよ(あの2人結婚したってよ)、「ちょっと聞いちくり」(ちょっと聞いてくれ)、「待っちくり」(待ってくれ)。格助詞の「で」も「じぇ」または「じ」となる(例)店じ会うた(店で会った)[4]。また「え」を「いぇ[je]」、「せ」を「しぇ[ʃe]」、「ぜ」を「じぇ[ʒe]」と言うのは九州方言一般に共通するが、大分県ではこれ以外のエ段音も口蓋化の傾向がみられる[3]

撥音(ん)の後にア行・ヤ行・ワ行音が来たときに、ナ行音に変わるナ行連声が残存する地域がある。特に、助詞「を」「は」において多くの地域で聞かれる[5]。例:「みかんは」→「みかんな」、「本を」→「ほんの」「ほんぬ」

日田・玖珠地方を除くほぼ全域で、ザ行音とダ行音の混同があり、特に「ざ」→「だ」、「ぞ」→「ど」が著しい[5]。 例:「ぞうきん」→「どうきん」。ダ行音とラ行音を混同する地域もある[5](例)「からだ」(体)→「かだら」、「原田(はらだ、苗字)」→「はだら」。

「つ tsu」を「とぅ tu」と発音する(例)「つまらん」→「とぅまらん」。中年以上でこの発音をする人が時折おり、古音の残存と考えられる。また「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」の四つ仮名を区別する地域があり、西部の日田・玖珠地域と南部の佐伯市豊後大野市付近が中心である。また、玖珠地方から宇佐市中津市にかけて、「じ」と「ぢ」は区別しないが「ず」と「づ」を区別する地域がある[6]

共通語と異なり、大分方言にはガ行鼻濁音はない。

ワがアに変わる地域があり、ワが全くない地域もある(例)「まあた」(真綿)、「あら」(藁)。豊後水道沿岸の一部や豊前沿岸部が中心[7]

クヮkwa、グヮgwaの音が聞かれる(例)「くゎじ」(火事)、「しょーぐゎとぅ」(正月)。ただし豊前沿岸部と津久見市以南の沿岸部にはない。高齢層が中心[8]

「鉄道」→「てっどー」、「国語」→「こっご」のような、濁音前での促音化は、県北半で多い[9]

母音の特徴 編集

語中・語尾の母音i、uの無声化や脱落化があり、特に日田・玖珠地方と豊前海岸部で著しい[9]

連母音の融合 編集

大分方言では以下の連母音融合が発生する。山間部の主に高齢層では、連母音融合により生じたイ段・エ段長音では、元の子音が保たれ、口蓋化が起こらない。また連母音融合によるeː、iːには、直前にwが挿入されることがある[10]

  1. ai → eː 例:「辛い」→「カレー」、「浅い」→「アセー」「アシェー」、「挨拶」→「ウェーサツ」
  2. ui → iː 例:「明るい」→「アカリー」、「熱い」→「アティー」「アチー」
  3. ei → iː 例:「姪」→「ミー」※「警察」「英語」のような比較的新しい語では、eiのまま発音される。
  4. oi → iː。国東半島東部・県南部海岸部ではeː。 例:「黒い」→「クリー」「クレー」

九州他地域と同じく、古い「ou」「eu」に由来する音(合音)が、それぞれ「uː」「juː」となる。たとえば「うーかぜ」(大風、おほかぜ)、「きゅー」(今日、けふ)など。ただし国東半島東部および南部海岸部では共通語と同じく「oː」「joː」となっている[11]

アクセント 編集

大分方言のアクセント体系は、大部分の地域が外輪東京式アクセントに分類される。

日田市の大部分は型区分の少ない東京式の変種アクセント(筑前式アクセントに類似)に分類され、熊本県側にせり出す形で位置する同市旧上津江村・旧中津江村無アクセントとされており、他地域とは大きく対立する。

共通語と異なるアクセントの語 編集

左が共通語、右が大分市における伝統的なアクセントである。太字部分がピッチが高くなる部分で、それがない語は平板型とする。

  • :や「矢」
  • の:お「斧」
  • も:く「雲」
  • み「蚤」
  • く「服」
  • あいだ:あいだ「間」
  • わび:あび「鮑」
  • いたち/いたち:いち「鼬」
  • おばさん:おさん「小母さん」 ※叔母、伯母の意味では共通語と同じアクセント
  • かわら:わら「瓦」
  • きもの:きの「着物」
  • んじょ:きんじょ「近所」
  • たばこ:たこ「煙草」
  • よこ:ちこ「千代子」(固有名詞 美代子、春子など、三文字の名前はこのようなアクセントとなりやすい)
  • つつじ/つじ:つじ「躑躅」
  • たち:はち「二十歳」
  • うべ:うべ「夕べ」
  • らび:わらび「蕨」
  • さく:く「咲く」
  • ぬく:く「抜く」
  • いる:はる「入る」
  • おい:おい「多い」
  • 2拍名詞第2類で共通語は尾高型、大分方言では平板型になる。このことから外輪型東京式に分類される。
    • :いし「石」、い:いわ「岩」、その他「歌」「紙」「川」「旅」「寺」「梨」「夏」「橋」「旗」「肘」「冬」「町」「胸」「村」「雪」
  • 3拍名詞第5類は共通語が頭高型、大分方言では中高型が多くなる。
    • みじ:もじ「紅葉」、のち:いち「命」、その他「姿」「朝日」「涙」
    • (例外)あぶら:ぶら「油」、はしら/はしらしら「柱」、たすきすき「襷」
  • 3拍名詞第6類は共通語が平板型、大分方言では頭高型が多くなる。
    • ねずみ:ずみ「鼠」、うさぎ:さぎ「兎」、その他「鰻」「狐」「雲雀」「雀」「蚯蚓」
    • (例外)せなか:せか「背中」、みさお:みお「操」
  • 3拍名詞第7類も共通語が平板型、大分方言では頭高型が多くなる。
    • いちご:ちご「苺」、うしろ:しろ「後ろ」、その他「鯨」「薬」「盥」

文法 編集

用言の活用 編集

動詞 編集

ナ行変格活用が残存している(ただし、「往(い)ぬ」は標準語では用いない)。

基本形方言活用形
未然形連用形終止形連体形仮定形命令形
死(し)ぬ・往(い)ぬ標準語-な-に-ぬ-ぬ-ね-ね
大分弁-な-に-ぬる-ぬる-ぬら-ね・によ
古語-な-に-ぬ-ぬる-ぬれ-ね

古語における上二段活用下二段活用動詞(・助動詞)の残存がみられる。ただし終止形連体形と同じ形を用いる。県南部では、上二段の下二段化があり、例えば「起きる」は「おけん」(起きない)、「おけた」(起きた)、「落ちる」は「おてん」(落ちない)、「おてた」(落ちた)となっている[12]

基本形方言活用形
未然形連用形終止形連体形仮定形命令形
見(み)える標準語-え-え-える-える-えれ-えろ・えよ
大分弁-え-え-ゆる-ゆる-ゆれ-えろ・えよ
見(み)ゆ古語-え-え-ゆ-ゆる-ゆれ-えよ
れる標準語れるれるれれれろ・れよ
大分弁るるるるるれれろ・れよ
古語るるるれれよ

標準語の上一段活用・下一段活用動詞が、一段活用と五段活用との混合した活用をする。

基本形方言活用形
未然形連用形終止形連体形仮定形命令形
見(み)る標準語みるみるみれみろ・みよ
大分弁みらみるみるみらみれ・みよ

肥筑方言同様、一段活用動詞がラ行五段活用化する傾向があり、特に未然形においてその現象が頻出する。

例:寝らん、出らん、着らん、似らん、見らん、起きらん、通じらん

また、否定形のみでなく、使役の場合の未然形にもその現象が起きやすい。

例:寝らせる、出らせる、着らせる、似らせる、見らせる、食べらせる
音便 編集

動詞連用形の音便には、以下のような共通語との違いがある。

ウ音便
  1. ワ行五段活用動詞の連用形:ウ音便 例:「オモタ」(思った)、「ソロタ」(揃った)
    1. 語幹の末尾がア段の場合には、オ段への変化を伴う。例:「コータ」(買った)、「モロータ」(貰った)
  2. バ・マ行五段活用動詞の連用形:ウ音便※ 例:「アソダ」(遊んだ)、「ヨダ」(読んだ)
  3. 形容詞の連用形:ウ音便 例:「赤くて」→「アコテ」、「高くて」→「タコテ」
イ音便
  1. サ行五段活用動詞の連用形:イ音便※ 例:「差した」→「サタ」、「貸した」→「カタ」
語幹の末尾がオ段の場合には、イ段への変化を伴う。例:「残した」→「ノキータ」、「戻した」→「モヂータ」

注:※を付した音便は、高齢者しか使わなくなってきている。

形容詞 編集

大分方言では共通語と同じく、形容詞の終止形・連体形を「-い」で結ぶ(イ語尾)。ただし、日田市では「よい」「ない」の2語のみ終止形に「よか」「なか」が用いられる場合がある[13]。形容詞の活用には標準語といくつかの相違点がある。

基本形方言活用形
未然形連用形終止形連体形仮定形
寒(さむ)い大分弁さむかろ-うさむかっ-た、
さむう-なる
さむいさむい-ときさむけり-ゃー
/さむかり-ゃー
  • 連用形は、共通語「さむくなる」に対して大分方言では「さむうなる」とウ音便になる。
  • 仮定形は、共通語「さむければ」に対して大分方言では「さむけりゃー」となる。また、より古形とされる「さむかりゃー」も用いられる。

形容動詞 編集

大分方言での形容動詞活用形は以下の通りである。

基本形方言活用形
未然形連用形終止形連体形仮定形
静(しず)か大分弁しずかじゃろ-う、しずかじゃっ-た、
しずかに-なる、
しずかで-あります
しずか-じゃ、
しずか-な
しずかな-ときしずかなり-ゃ
(しずかなら)

大分方言は標準語の形容動詞「きれいだ」「おっくうだ」などの語を欠き、代わりに形容詞の「うつくしい」「よだきい」を用いる他、形容動詞の多くの語が形容詞としても活用する点が特徴である。

  • 大分方言では形容詞として活用する形容動詞の代表的な語彙
「四角だ→しかきい」「真っ青だ→まっさいい」「横着だ→おうちゃきい」「賑やかだ→にぎやけえ」「気の毒だ→きのどきい」「真っ直ぐだ→まっすぎい」など。

助動詞 編集

動詞に付く否定の助動詞は「ん」。「…ないで」にあたる否定中止には、「行かんで」「行かんじ」のように「んで」「んじ」を用いる。過去否定(…なかった)には、県北山間部および南部に「ざった」があるが、古い形であり、現在は「んじゃった」、若い世代を中心に「んかった」を使う[14]

全県で用いられる断定表現は「~じゃ」であるが、若年層を中心に「~や」の使用が急速に普及している。

  1. じゃけん/じゃき⇒けん/

可能表現の使い分け 編集

西日本各地の方言と同様に、状態可能と能力可能の表現を使い分けるが、大分弁においては、状態可能表現が主観と客観によってさらに二分化され、あわせて3種類の使い分けがなされている[要検証]

  1. 「食べらるる」→(腐っていないから)食べることができる。(=状態可能/客観)
  2. 「食べれる」→(まだ満腹ではないので)食べることができる。(=状態可能/主観)[要検証]
  3. 「食べきる」→(苦手だったりお腹をこわす人もいるけれども、自分は)食べることができる。(=能力可能)

不可能を表す場合には、上記を否定形で用いる。

「食べられん」(=状態不可能/客観)、「食べれん」(=状態不可能/主観)、「食べきらん」(=能力不可能)

「食べれる」の形は「ら抜き言葉」といわれる若者言葉ではなく、かなり古くからみられた(例)見る→見れる。ただし、大分弁のら抜き言葉は「状態可能(主観)」のみしか表さず、単に「可能」全般の意味を表すわけではない。

例 - まだ満腹やないけん食べれる(まだ満腹ではないから食べられる)
誤例 - (*)そんケーキはまだ賞味期限が切れちょらんき食べれるで →この場合は状態可能(客観)を表す「食べらるる」が正しい。

南部の海岸部では、「きる」を使わずに、「よー」+動詞または「えー」+動詞の形で能力可能を表す[15]

「-よる」と「-ちょる」の使い分け 編集

西日本各地の方言に共通して見受けられる、動作の進行・継続を表す「-よる」と、状態の完了・継続・結果を表す「-ちょる」の2種類のアスペクト表現が大分弁にも存在する。「-よる」は「-よん」、「-ちょる」は「-ちょん」に変化することもある。

  1. さっきから雨が降りよるなぁ。→さっきから雨が降っているね(今も降っている)(=進行・継続)
  2. いつん間にか雨が降っちょるなぁ。→いつの間にか雨が降っているね(今はもう上がっている)(=完了・存続・結果)

助詞 編集

主格格助詞「が」は、北部で「ぐ」、南部で「い」に変化する場合がある[4](例)雨い降りよる(=雨が降っている)。対格(を)は普通、「酒を」→「さきゅー」、「花を」→「はのー」、「年を」→「としゅー」のように、名詞と融合して発音される。国東東部では「花を」→「はなー」、国東東部・県南沿岸部では「酒を」→「さきょー」となる[14]。ただし名詞語尾が長音の場合や名詞が1拍の場合は融合せず「お」と発音する[14]。方向・方位を表すには、「へ」は用いず「に」を使うが、これが「い」に変化し、さらに「を」と同じく名詞と融合する(例)「大分に」→「おいてー」[14]。これも名詞語尾が撥音・長音の場合や名詞が1拍の場合は「に」のまま[14]。帰着点を含まない方向・方位を表すには、「さめ」「さね」「どり」「どぅり」「んごつ」などを用いる[14]。動作・行為の目標を表すのに、動詞連用形+「げ(ー)」を県北半分で使う[4]

「の」「のもの」にあたる準体助詞は、九州で広く「と」を使うが、大分県では西部の日田玖珠地方中津市山間部で「と」「つ」を使う以外は、北部の中津市宇佐市豊後高田市付近で「のん」、それ以外の地域で「の」を用いる[4]

原因・理由を表す接続助詞は、「き」「きー」「けー」「けん」が使われる(例)眠かったき何もしちょらん(眠かったから何もしていない)。県北には「なきー」、国東東部には「ほどに」に由来する「ほで」、南部山間部の一部に「によって」に由来する「のっちぇ」がある[16]。逆接の接続助詞には、「けんど」「けんどん」「けどが」「けんどが」などを使う。日田市では肥筑方言系の「ばっちぇん」も使われる[14]

  • 「~っちゃ」- 文の内容を強調したい時に語尾につける。(例)違うっちゃ!俺はやっちょらんっちゃ!(違うって!俺はやってないって!)
  • 「~に」- 標準語でいう「~だよ」に近い。(例)まだ宿題してないに(まだ宿題してないんだよ)
  • 「~にから」-「~のに」 (例)せっかくしちょったにから(せっかくしておいたのに)
  • 「~やに」-「~に」と使い方はほぼ同じ。(例)あんたの事が好きやに(あなたの事が好きなんだよ)
  • 「~かえ」-標準語の「~かい?」や「~しなさい」に近い。ただ若い人は使わない人が多い。(例)元気かえ?(元気かい?) 使ったらちゃんと直さんかえ(使ったらちゃんと片付けなさい)
  • 「~かや」-標準語でいう「~のか」にあたる。 (例)宿題したんかや(宿題をしたのか)
  • 「が」-強調の意味をもつ。怒りの気持ちを込めて使われる場合も多く、「~ちゃ」に近い。 (例)もう作りよるが(もう作っているぞ)
  • 「~かり」-助詞「~から」にあたる。
  • 「~まじ」-助詞「~まで」にあたる。
  • 「そげえ」「どげえ」「こげえ」「あげえ」-「そんな」「どんな」「こんな」「あんな」

代表的な語彙 編集

太字部分にアクセント。

あ行 編集

  • い/あえ:青い。
  • たる:さわる。
  • :踵。
  • ぼ:餅。
  • ゆる:強風などで、枝についている実が落ちてしまうこと。
  • あらきい/あらけねえ:荒っぽい。
  • んし:「あの人」の意味。「し」は衆で、関西方面の一部で男衆(おとこし)と発音することとの近似が認められる。
  • いいちこ:県北部で使われる(中津弁)。「ちこ」は強意の接尾辞。同名の麦焼酎「いいちこ」も三和酒類より発売されている。
  • かずとうきょうべん:気取って、普段の会話も共通語で話そうとする人を馬鹿にする言葉。
  • かちい:「(性格が)悪い」のほうの「おろいい」とほぼ同じで、県北で使う。なお、「おろいい」「いかちい」はそんなに深い意味はなくても、会話の中で冗談交じりに「あんたおろいいわあ」などと使うものであり、その場合は別に人格を否定しているわけではない。ただし第三者をさして「~はおろいい」などと言う場合は別である。
  • いっすんずり:渋滞がひどいさま。少し動いては止まりを繰り返す様子。
  • いっかっち:マテバシイイチイガシなど、アク抜きをせずに食べられるどんぐりの類。
  • :お尻(女性がつかう言葉)
  • びしい/いびしげねえ:汚い、気味悪い
  • り/いり:蟻。「家蟻」が訛ったもので、食物等を狙って家の中に侵入してくる蟻を指して言う。
  • たちい:汚い、不潔だ
  • えらしい:「かわいい」の意味。しばしば「えしい」と発音される。
  • のは:ヤマメ(魚の名)。
  • さん、おさん、:親しみをこめた呼びかけ。
  • ど:釜戸。
  • い/おえ/おい/おい:怖い
  • じゃみ:お手玉
  • っさん:和尚さん。
  • っとろしい:「恐ろしい」の意味。
  • っとしゅなこつ:「すごいなあ」の意味の感嘆の言葉。
  • っとっしゃう:上に同じ。
  • らぶ:「叫ぶ」の意味。
  • ろいい:北部や日田では「古い」、杵築市などでは「(性格が)悪い」の意。北部では「ずるい」の意でも用いられる。
  • ぼ/おっぽ:おんぶ。

か行 編集

  • く:(大きなものを)持つ、担ぐ
  • たぐる:荷物などを担う。
  • ~するかたで:~しながら。
  • る:参加する・仲間に入る。幼児が「かーてーて(仲間に入れて)」と言うなど、広く使われている。
  • ちこわす:「かち」は強意で、「(ばらばらになるほど)ひどく壊す」の意味。
  • って:借りて(例:タオルをかってくる→タオルを借りてくる) ※「買ってくる」の場合は「こうてくる」と言う。
  • る:参加させる・仲間に入れる
  • す:コップなどを間違えて倒したり、液体などをこぼすこと。また、物を裏返したりすること。大分県人が方言だと気づいていない単語の代表格。
  • う:「(荷を)担う」の意味。背負う。全ての世代で使われる。大分県人が方言だと気づいていない単語の代表格。
  • ちい:きつい、激しい、辛い、疲れた、具合が悪い ※しばしば「きてぃ」と発音される。
  • きな:黄色
  • のどきい:気の毒だ。形容動詞「気の毒」が形容詞化されたもの。転じて、「恐縮です」「かたじけない」の意味で用いられる。 ※大分弁では形容動詞を形容詞化する現象が盛んである(例:横着だ⇒横着ぃ)。
  • ばる:用意周到に支度をする、頑張る、力を入れる。
  • いねえ:黄色い
  • がいい:いい気味だ。
  • ぎゅうらし:「仰らしい」。仰々しい。
  • で:傷が入って売り物にならない果物など。
  • びる:「結ぶ」の意味。
  • る:崩れる。
  • い:黒い
  • げ:軒の意味。
  • しょうもしれん:「話題にする価値もない」という意味。
  • けっちゃらきい:とにかく嫌で嫌で仕方がないときに使う。「誰々さんはけっちゃらきい」などとは言わずに、半ば独り言のように使う言葉である。これもほとんど聞かなくなった。
  • ってん:性根が曲がっている。
  • き:ここ。
  • しきい/こい:「ずる賢い」の意味。老人以外にはあまり使わない。
  • ごと:「~のように」の意味。しばしば、ごと→ごつ。「ごとく」の変化と思われる。
  • す:いじめる。竹田などで使われる。
  • びる/こびり:農作業時の間食、おやつ。
  • る:かじる、くいつく。

さ行 編集

  • さありゃまあ:「そうだね」の意味。これはほとんど死語と化している。
  • さっちゃ:「強いて」「無理に」「わざと」「しょっちゅう」。日田地方を除く大分県全域で使われる。
  • おふき:アオヤギ(貝の名)。
  • かたもしれん:「(馬鹿らしいほど)つまらない」の意味。
  • かぶる、まりかぶる:子供が排泄を失敗すること。「しかぶる」は特に小用の場合を示す。
  • ちくじい:「しつこい」の意味。
  • っとい:七島藺(畳表の材料)。
  • なし:意味のない会話。
  • っと:人の性格の表裏が激しいさま。ころっと変わるさま。例1:~さんなしねっとしちょん。(~さんは表裏が激しい) 例2:~さんな先生ん前じゃおとなしゅしちょってん、先生のおらんとこじゃとしねっとわりいことんじょうする。(~さんは先生の前では静かにしているが、先生のいないところではころっと変わっていたずらばかりする)
  • しゃあしい:「(音が)うるさい」「(作業が煩雑で)嫌だ」の意味。
  • しゃき:榊
  • しゃっち・しゃって:「強いて」「無理に」「わざと」「しょっちゅう」の意味。主に日田地方で使う。福岡方言。
  • しょうもねえ:「どうしょうもない」「つまらない」の意味。
  • しょわしい(せわしい):「忙しい」の意味。
  • い:雨の降ったあとで、地面がややぬかるんでいる様子。
  • らしんけん:一所懸命
  • んけん:非常に、とても
  • かんたらしい:「好かん」の強意。「ばされえ好ん」よりもさらにひどい。
  • っちゃんがっちゃん:バラバラに散らばった状態、めちゃくちゃに壊れた状態、どうしようもないほどひどい状況
  • つねえ:せんない、どうしようもない、身の詰まりだ。
  • る:物事が先に進むこと。
  • もつくれん:「くだらない」「馬鹿馬鹿しい」の意味。多く年配者が使う。
  • ろしい・せらしい:「(音が)うるさい」。竹田など熊本県に近い地域で使われる。熊本弁「せからしか」が転じた方言。
  • く:「急ぐ」「混む」「逸る」「(水路などを)堰き止める」の意味。
  • う(せう):「いじめる」の意。
  • せろしい:「うるさい」「やかましい」の意。
  • い:切ない、やるせない、きつい、面倒だ、情けない。
  • :路地(通常、非常に狭い路地を指す)
  • こらそんばし:適当に、ぞんざいに。

た行 編集

  • たまがった:びっくりした。
  • ゆうさん:唄、踊りなどが上手な人への冗談交じりの呼びかけ。
  • ちゃあまぁ:驚いた時に思わず出る言葉(「あらまぁ」等)。主に女性が用いる。
  • ちゃいねえ:茶色い
  • ちまわす:「何回もぶん殴る」の意味。
  • つば:唇
  • ぶし:膝。
  • :庭、空き地。
  • てれんぱらん:やる気なくだらだらしている様子を表す。竹田方面などでよく使われる。他地域でも「てれんぱれん」などの言い方がある。
  • :「(手や梯子などが)届く」の意味。
  • う:「~達」の意味。
  • うきび:とうもろこし。
  • うてん:とても。
  • :友人。
  • っぱくろ:嘘、ホラ
  • べ:「びり」「最下位」の意味。びびたんとも言う。
  • どろよこい:農繁期が落ち着くこと。
  • わずべん:独り言。

な行 編集

  • す:「(ものを)しまう」の意味。
  • しか:なんでだ? という意味だが、実際は「しかえ」と語調を和らげる場合が多い。「夕方なしか」というラジオ番組があり、全県的に知名度が高い。
  • ば:きのこ。主に椎茸の肉厚をさす
  • んかかる:大分市より北の地方や竹田・豊後大野で使われる。寄りかかるという意味。鹿児島弁でも使われる。熊本弁では「ねんかかる」と言うようだ。
  • んくりかやす:「裏返す」の強意。
  • :「ねき」と同様に用いる。
  • :「~んね」の形で使われ、意味は「~の辺り」「~の近所」。
  • じきね:気難しい、天邪鬼な。またはそのような人。

は行 編集

  • わら:墓地。地名や「新」などの後につける場合、しばしば「ばから」と転訛する。例:新墓原(しんばから)
  • されえ:「もの凄く」の意味だが老人以外あまり使わない。
  • じけえ:ワラくずが袖に入ったりしてちくちくして痒いときや、めざしなどを食べて喉がガサガサするときに使う。「はじかいい」とも言う。
  • とこ:駐車料金や小作料など、一定の土地を借りて支払う対価。家賃などには使わない。
  • く:「(ほうきで)はく」の意味。
  • びきたん:蛙
  • こ:娘(自分の子とはかぎらない)。
  • こじる:引きずる。
  • じい:辛い、きつい、疲れた。
  • :かさぶた。
  • だりい:「おなかがすいた」の意味。
  • びったれ:だらしない・不潔な・汚い人
  • どる:前を向いたまま下がる動作。加えて、目上の人に対して一歩引いた立場を取る様。
  • びんこ:めだか
  • びんびんこ/びびんこ:肩車
  • りかぶる:おもらしをする事。特に大用を示す。
  • る:さえずる。この単語は下1段活用ではなく、5段活用である。したがって打消しはふけらん。
  • ぶっさめえ:宇佐市で使われている、面倒くさいという意味、「よだきい」に近いだろうか。
  • かる、ほす:「捨てる」の意味。
  • :崖。または崖道の難所。
  • たる:「放っておく」「(相手を)そっとしておく」「そのままにしておく」「捨てる」の意味。
  • る:「(屋根から雨水が)漏れる」の意味。同じ「漏れる」でも、「話がぼる」などとはいわない。
  • ん:「とても」の意味。早く喋っているときや感情がこもったときに、「ほんに」が詰まったもの。 例:んちいせえ(とても小さい)
  • ん:男の子。
  • んなこあ:「ほんとだね」の意味。「さありゃまあ」は、本心から「そうだね」と言っているのに対して、「ほんなこてなあ」の場合は相槌のようなものであり、強く同意して「ほんとだね」と言っているわけではない。(否定しているわけでもないが)

ま行 編集

  • :回る。
  • :運。 例:まんがいい
  • げねえ:「かわいそう」の意味。若者にもよく使われる。むげしねぇとも言う。
  • んどしい:恥ずかしい。誤って「面倒くさい」の意味で使う若者も少なくない。
  • うが:馬鍬。
  • 豊後高田市周辺の市町村で使われる、凄く~という意味(もなおもしれえ/もうなおもしりい→すごく面白い)。

や行 編集

  • ぜねえ:「忙しい」「せわしない」の意。
  • ぜんのはなに:途端に。
  • んべ/んべ:昨夜。
  • う:休憩する。憩うの転訛。
  • だきい:めんどう、つかれたなどの気持ちを表す、県全体、多くの世代が使う[17]語源平安時代の「よだけし」。宮崎弁でも使われる。

わ行 編集

  • やく:「いたずら」の意味。
  • くど:蛙。
  • れ:あんた、お前さんといったニュアンスの呼びかけ。男性が用いる。中部では「貴様」のニュアンスの場合もある。地域によって意味するものが「お前さん」と「貴様」の場合があるので、注意が必要。

大分弁に関連した人物・作品など 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 豊日方言のうち、宮崎県の大半(旧日向国)で話される方言を日向方言という。
  2. ^ 両豊方言のうち、福岡県東部で話される方言を福岡県豊前方言という。

出典 編集

  1. ^ 日本方言の記述的研究・国立国語研究所編(1959) 241-242頁
  2. ^ 講座方言学 9 1983, p. 243.
  3. ^ a b 講座方言学 9 1983, p. 245-246.
  4. ^ a b c d 講座方言学 9 1983, p. 265.
  5. ^ a b c 講座方言学 9 1983, p. 247.
  6. ^ 講座方言学 9 1983, p. 246.
  7. ^ 講座方言学 9 1983, p. 244-245.
  8. ^ 講座方言学 9 1983, p. 245.
  9. ^ a b 講座方言学 9 1983, p. 251.
  10. ^ 講座方言学 9 1983, p. 248-249.
  11. ^ 講座方言学 9 1983, p. 249-250.
  12. ^ 講座方言学 9 1983, p. 256-258.
  13. ^ 講座方言学 9 1983, p. 260.
  14. ^ a b c d e f g 講座方言学 9 1983, p. 264.
  15. ^ 講座方言学 9 1983, p. 263.
  16. ^ 講座方言学 9 1983, p. 263-264.
  17. ^ 武光誠『県民性の日本地図』文藝春秋〈文春新書〉、2001年、212頁。ISBN 4-16-660166-0 

参考文献 編集

  • 『NHK日本語発音アクセント辞典 新版』NHK放送文化研究所 編(NHK出版、1998年発行) - 標準語のアクセントはこの書籍に依った。
  • 『全国アクセント辞典』 平山輝男著(東京堂出版、1977年発行) - 大分市における伝統的なアクセントを調査して掲載。
  • 『日本方言の記述的研究』・国立国語研究所編(1959年) 239-264頁(大分県大野郡川登村
  • 『日本言語地図』第1集~第6集・国立国語研究所編(1966年-1974年)
  • 『方言文法全国地図』第1集~第6集・国立国語研究所編(1989年-2006年)
  • 「大分県の方言」『講座方言学 9 九州地方の方言』国書刊行会、1983年。 

関連項目 編集