マツブサ科(マツブサか、学名: Schisandraceae)は、被子植物アウストロバイレヤ目に属するの1つである。直立またはつる性木本であり、精油を含む。は両性または単性、らせん状に配置した多数の花被片萼片花弁の分化は不明瞭)と雄しべをもつ(図1)。雌しべは離生し、果実は集合性の袋果または液果となる。

マツブサ科

(上) 1a. Illicium henryi の花
(下) 1b. チョウセンゴミシの雌花
分類
:植物界 Plantae
階級なし:被子植物 angiosperms
:アウストロバイレヤ目 Austrobaileyales
:マツブサ科 Schisandraceae
学名
Schisandraceae Blume (1830)[1]
タイプ属
マツブサ属 Schisandra Michx. (1803)[2]
シノニム
英名
star anise family[3]

北米南東部と東アジアから南アジアに隔離分布している。3属(シキミ属サネカズラ属マツブサ属)、約80種が知られる。シキミ属を別科(シキミ科)に分けることが多かったが、2020年現在ではふつうマツブサ科としてまとめられている。

特徴

編集

常緑性または落葉性木本であり、直立 (低木高木) またはつる性 (藤本)[3][4][5][6] (下図2a, b)。材は散孔材 (道管は散在)、道管は階段穿孔、網状穿孔または単穿孔をもち、チロースが存在する[5][6]。髄は均質だが中央部の細胞の細胞壁は薄い[5][6]師管色素体はS-type (デンプン粒を含む)。節は1葉隙1–3葉跡[3][4][5][6]互生し、しばしば枝先にまとまってつく[3][5][6] (下図2c)。単葉葉縁は全縁または鋸歯があり、葉柄をもち、托葉を欠く[4][5][6] (下図2c)。葉にはふつう腺点がある[3][5][6]葉脈は羽状[3]気孔は不規則型または平行型[5][6]。植物体は精油細胞や粘液細胞、星状厚壁異形細胞をもつ[3][7]。四環トリテルペンをもつ[7]フラボノールを有し、フラボンを欠く[7]

2b. サネカズラはつる性
2c. シキミの葉と花芽

はふつう葉腋に単生する (まれに幹生花)[3][4][5][6] (上図2c)。両性花、あるいは単性花雌雄同株異株または雑性 (両性花と単生花をつける)[3][4]花托は、花後に肥大または伸長することがある[4] (下図3d)。花は放射相称、花被片は多数 (5–33枚)、萼片花弁の区別がなく (ときに外側から内側へ萼片状から花弁状へ連続的)、離生し、らせん状につく[3][4][5][6] (下図3a, b)。雄しべは4–80個、ふつう離生だがときに合生、花糸は葉状ではないが短く、らせん状につき、求心的に成熟する[3][4][5][6] (下図3a, b)。小胞子形成は同時型、タペート組織は分泌型[5][6]花粉は2細胞性、3または6溝粒である点で真正双子葉類の花粉に似ているが、溝の位置が異なり、相同なものではない[3][4][5][6]心皮は5個〜多数、離生しており、螺生または輪生する[3][4] (下図3a)。子房上位、1心皮に1–5個の胚珠 (倒生胚珠または湾生胚珠) がつく[3][5][6]果実袋果または液果であり、集合果となる[4] (下図3c, d)。種子は多量の脂質の胚乳を含み、胚は小さい[4]。内胚乳形成は造壁型[5][6]

3a. シキミの花
3c. シキミの果実 (裂開して種子が見える)

少なくとも一部の花は発熱性である[7]。主な送粉者はタマバエ類であり、特定のタマバエ類の雌が訪花、花に産卵、幼虫は花の分泌物 (セスキテルペンなど) を食料としていることが報告されている[7]。その他に甲虫による送粉もあり、また騙し送粉 (送粉者に報酬を与えない) をおこなっている可能性もある[7]

分布

編集

アジア東部と北米に隔離分布する。新世界ではアメリカ合衆国南東部とメキシコ東部、西インド諸島旧世界ではセイロン島およびネパールから東南アジア日本を含む東アジアまでの熱帯から温帯域に分布している[3][4][5][6][7]

人間との関わり

編集

マツブサ科の植物は精油を多く含み、しばしばこれが利用される。トウシキミ果実八角はっかく大茴香だいういきょう、スターアニスとよばれて香辛料生薬として広く利用され、大規模に栽培もされている[8][9] (下図4a, b)。またチョウセンゴミシマツブサも果実が飲料や生薬とされたり、つるや葉が浴湯料とされることがある[10][11][12][13] (下図4c, d)。

シキミ属は有毒のセスキテルペン (アニサチンなど) を含むものが多く、食中毒が発生することもある[14][15]。一方、日本に分布するシキミは仏事に広く用いられ、仏前や墓前の供花とされたり、抹香線香の原料とされる[16]

4a. 乾燥されるトウシキミ果実 (八角)
4b. 市場で売られる八角
4c. 市場で売られるチョウセンゴミシの果実 (五味子)
4d. 五味子茶

分類

編集

2020年現在、マツブサ科には3属 (シキミ属サネカズラ属マツブサ属) が知られている (下表)。これらの属は、花の形態の類似性から (らせん状に配置した多数の雄しべ雌しべなど)、古くはモクレン科に分類されていた[4][17]。やがてシキミ属がシキミ科に、サネカズラ属マツブサ属がマツブサ科 (狭義) に分類されるようになった[18][19]。この2科はつる性か否か、花は両性か単性か、果実は袋果か液果か、などの点で異なる (下表)。ただし両科は多くの形質を共有しており (上記参照)、近縁であることは認識されていた。

表1. マツブサ科に属する3属の特徴[4]
葉縁雌しべ胚珠数/心皮果実種数[1]
シキミ属 (Illicium) (下図5a, b)直立性木本、常緑性全縁両性輪生1個袋果37
サネカズラ属 (Kadsura) (下図5c)つる性木本、常緑性ふつう鋸歯単性ふつう螺生2–5個液果、球状17
マツブサ属 (Schisandra) (下図5d, e)つる性木本、ふつう落葉性ふつう鋸歯単性ふつう螺生2–5個液果、房状26

新エングラー体系では、シキミ科とマツブサ科 (狭義) はモクレン目に分類されていた[18][19]。またその後のクロンキスト体系では、この両科は独自のシキミ目に分類されていた[20][21]

やがて分子系統学的研究が行われるようになると、シキミ科とマツブサ科 (狭義) の近縁性が確認されると共に、これが被子植物の初期分岐群の1つであることが明らかとなった。シキミ科とマツブサ科 (狭義) はトリメニア科アウストロバイレヤ科に近縁であり、2020年現在ではこれらをあわせてアウストロバイレヤ目に分類されている[7]。現生被子植物の中では、最初にアンボレラ目が、次にスイレン目が分岐し、3番目にアウストロバイレヤ目が分岐したと考えられている[7]。またシキミ科とマツブサ科 (狭義) はそれぞれ単系統群であることが示されており、両科を別に扱うことも可能であるが[22]、両科をあわせてマツブサ科 (広義) とすることが提唱され[23]、2020年現在ではふつうそのように扱われている[4][7]

マツブサ科

シキミ属

サネカズラ属

マツブサ属

6. マツブサ科の系統仮説[24](二重線は非単系統)

マツブサ科には3属、約80種が知られる[1]。この3属の中では、シキミ属が最初に分岐し、サネカズラ属マツブサ属が単系統群を構成する[7](図6)。ただし分子系統解析からは、サネカズラ属とマツブサ属はそれぞれ非単系統群であることが示唆されている[7][24]

表2. マツブサ科の分類体系[1][4][7]

脚注

編集

出典

編集
  1. ^ a b c d Schisandraceae”. Plants of the World online. Kew Botanical Garden. 2021年8月7日閲覧。
  2. ^ Schisandraceae Blume”. Tropicos v3.3.2. Missouri Botanical Garden. 2022年8月13日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o Judd, W.S., Campbell, C.S., Kellogg, E.A., Stevens, P.F. & Donoghue, M.J. (2015). “Schisandraceae”. Plant Systematics: A Phylogenetic Approach. Academic Press. pp. 248–249. ISBN 978-1605353890 
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 大橋広好 (2015). “マツブサ科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. p. 49. ISBN 978-4582535310 
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Watson, L. & Dallwitz, M.J. (1992 onwards). “Schisandraceae Bl.”. The Families of Angiosperms. 2021年8月8日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Watson, L. & Dallwitz, M.J. (1992 onwards). “Illiciaceae S.F. Gray”. The Families of Angiosperms. 2021年8月8日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m Stevens, P. F. (2001 onwards). “Schisandraceae”. Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017. 2021年8月7日閲覧。
  8. ^ "スターアニス". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2021年7月31日閲覧
  9. ^ 3.5 トウシキミ(ミャンマー)”. 農林水産省. 2020年1月26日閲覧。
  10. ^ "五味子". 精選版 日本国語大辞典. コトバンクより2021年7月16日閲覧
  11. ^ チョウセンゴミシ”. 熊本大学薬学部 薬草園 植物データベース. 2021年7月16日閲覧。
  12. ^ マツブサ”. 宮島の植物と自然. 広島大学. 2021年7月17日閲覧。
  13. ^ マツブサ”. 熊本大学薬学部 薬草園 植物データベース. 2021年7月16日閲覧。
  14. ^ 丹羽治樹 & 山田静之 (1991). “植物神経毒アニサチンの合成”. ファルマシア 27 (9): 924-927. doi:10.14894/faruawpsj.27.9_924. 
  15. ^ 岩部幸夫 (1991). “シキミの実による食中毒”. 食品衛生学雑誌 32 (5): 472-474. doi:10.3358/shokueishi.32.472. 
  16. ^ "シキミ". 日本大百科全書 (ニッポニカ). コトバンクより2021年7月24日閲覧
  17. ^ 勝山輝男 (2000). “マツブサ科”. 樹に咲く花 離弁花1. 山と渓谷社. pp. 388–390. ISBN 4-635-07003-4 
  18. ^ a b Melchior, H. (1964). A. Engler's Syllabus der Pflanzenfamilienmit besonderer Berücksichtigung der Nutzpflanzen nebst einer Übersicht über die Florenreiche und Florengebiete der Erde. I. Band: Allgemeiner Teil. Bakterien bis Gymnospermen 
  19. ^ a b 井上浩, 岩槻邦男, 柏谷博之, 田村道夫, 堀田満, 三浦宏一郎 & 山岸高旺 (1983). “モクレン目”. 植物系統分類の基礎. 北隆館. p. 221 
  20. ^ Cronquist, A. (1981). An integrated system of classification of flowering plants. Columbia University Press. ISBN 9780231038805 
  21. ^ 加藤雅啓 (編) (1997). “分類表”. バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統. 裳華房. p. 270. ISBN 978-4-7853-5825-9 
  22. ^ Angiosperm Phylogeny Group (2003). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG II”. Botanical Journal of the Linnean Society 141 (4): 399-436. doi:10.1046/j.1095-8339.2003.t01-1-00158.x. 
  23. ^ APG III (2009). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG III”. Botanical Journal of the Linnean Society 161 (2): 105–121. doi:10.1111/j.1095-8339.2009.00996.x. 
  24. ^ a b Fan, J. H., Thien, L. B. & Luo, Y. B. (2011). “Pollination systems, biogeography, and divergence times of three allopatric species of Schisandra in North America, China, and Japan”. Journal of Systematics and Evolution 49 (4): 330-338. doi:10.1111/j.1759-6831.2011.00125.x. 
  25. ^ 小林達明, 浅野義人 & 國分尚 (2003). “園芸学部松戸キャンパスの木本植物分布状況”. 千葉大学園芸学部学術報告 57: 137-147. 

外部リンク

編集