フォード・Eシリーズ

EシリーズE-Series)は、アメリカ合衆国自動車メーカーフォード・モーターが製造・販売しているバン/ワゴン、およびトラックである。1961年にファルコンエコノラインとして登場。フォルクスワーゲン・タイプ2を参考に開発された、フルサイズバンの元祖である。(シボレークライスラーも同時期に開発している)当初はフォルクスワーゲン・タイプ2と同様のサイズ(ホイールベース2300mm程度)で開発されたが、平均的な北米家庭には小型すぎたため、1968年1975年モデルチェンジの際に拡大され、いつしかフルサイズバンと呼ばれるようになった。

1997年 - 2000年式エコノライン

一般的なE-150とヘビーデューティーのE-350などが存在する(旧モデルでは更にヘビーデューティーのE-450も存在)。

エンジンリンカーン車やフォード・エクスプローラーと同様V型8気筒4.6L SOHC24バルブを標準搭載し、オプションでフォード・エクスペディションと同様V型8気筒5.4L SOHC24バルブも搭載可能である。E-350の場合は、V型10気筒6.8L SOHC 24バルブも存在する。

初代(1961年 - 1967年) 編集

フォード・エコノライン(カスタマイズカー

1960年9月21日、1961年モデルとして発売[1]1957年から開発され[1]パネルデリバリー(およびフォード・クーリエセダンデリバリー)の後継車である。小型車のファルコンをベースに開発された[2]。カーゴバン、パッセンジャーバン(ステーションバンやクラブワゴンの名でも販売)、ピックアップトラックの3タイプで販売された[2]

同年に登場したシボレー・コルベアサポートバンとフォルクスワーゲン・タイプ2と競合し、エコノラインに登場に伴いシボレー・バンダッジ・A100など、様々なバンが登場した。

当初、85馬力144キュービックインチ直列6気筒エンジンを搭載していたが、後に101馬力170キュービックインチ直列6気筒エンジンがオプション設定された。1965年には170キュービックインチ直列6気筒エンジンが標準搭載化し、240キュービックインチ直列6気筒エンジンがオプション設定された。

エンジンはフロントシート直下に搭載され、前車軸が運転席直下に配置されるフルキャブオーバー型を採用していた。荷室の床を平坦にし、大型のトランクを採用することでアクセス性を向上させた。

3速MTを標準搭載。1963年に4速MTも追加されたが、翌1964年に廃止された。

ファルコンとは異なり、エコノラインはフロントソリッドアクスルリーフスプリングとリアソリッドアクスルリーフスプリングを装着していた[3]フロントグリルは、テムズ400Eフォード・トランジットの先代)を若干モチーフにしている。

初代は一般的な6ドアカーゴバンに加え、1963年には8ドアカーゴバン(運転席側にドア2枚を追加)が追加された。1964年にはパネルバン(側面後部の窓を廃止)、1965年にはスーパーバン(後車軸後部を18インチ延長)が追加された。

初代は、AT&T社の社用車として多数採用された。

初代は、マーキュリーでも同名で販売された。マーキュリー・Mシリーズと同様相違点はエンブレムのみで、カナダではカーゴバンおよびパッセンジャーバン、ピックアップトラックが販売された。

1961年オークビル工場で生産が開始された。同年後半にはピックアップトラックがオハイオ州ロレイン郡工場へ移管した[4]1962年には全タイプがオークビル工場で生産されるようになった。1965年以降は、生産が米国で行われるようになった[4]

なお、マーキュリー・エコノラインの生産台数は少なく、1965年は1,291台に留まった[5]。1968年モデル以降は、マーキュリーでのトラックの販売は終了となった。

2代目(1968年 - 1974年) 編集

1969年 - 1971年式エコノラインウィンドウバン

1967年の長期にわたる全米自動車労働組合ストライキにより、予定より4ヶ月遅れの1968年1月に1969年モデルとして発売。ベース車はファルコンではなく、Fシリーズへ変更となった。デザインは、欧州仕様であるトランジットに似せたものであった。

先代同様モノコック構造を採用するものの、前車軸はより車体前部に設置された。ツインIビームフロントサスペンションを装着。ホイールベースは381mm延長し、457.2mm延長されたロングホイールベースモデルは、当時の北米では最大級であった。ダッジやシボレーに続き、V型8気筒エンジンがオプション設定された。

シャシも変更され、先代とは異なりボンネットタイプを採用。フロントグリルはFシリーズに似たものとなった。

エンジンの位置が変更され、フロント下に移された。カーゴバンは継続設定されたが、ファルコンバンの後継としてパッセンジャーバンが追加設定された。フォードはパッセンジャーバンの販売を増加させるため、新たに2グレード、クラブワゴンとクラブワゴンシャトーなどラインナップを充実させた。ロングホイールベースモデルをベースにしたクラブワゴンシャトーは、エアコン千鳥格子の生地、AM/FMカーオーディオ、12人乗りモデルをオプション設定した。

1971年にはFシリーズに合わせてグリルデザインが変更された。

1972年にはスライドドアがオプション設定され、同時にカットアウェイバンに箱車向けのキャブ付シャシであるハイキューブバンが追加された。キャブ付シャシの追加により、2010年代でもRV市場で人気集めることとなる。

3代目(1975年 - 1991年) 編集

1983年 - 1991年式クラブワゴン

1975年フルモデルチェンジを実施。商用モデルがエコノライン、乗用モデルがクラブワゴンという名前になった。新型シャシをベースに、汎用性を向上させるため、アメリカにおいて初めてフルサイズバンでボディオンフレームを採用して開発された。シャシの強度を高め、先代同様ツインIビームフロントサスペンションを採用。エンジンはより前方に搭載し、バンはサイズが大きくなり、3,150mmのショートホイールベースモデルは先代のロングホイールベースモデルより12.7mm延長されている。新型ロングホイールベースモデルは3,510mmとなり、1990年までのフルサイズバンで最も大型であった。

カットアウェイバンとして人気を集め、多数の救急車、トラック、バスとベースとなった。Fシリーズとドライブトレインを共有し、1970年代にはコンバージョンバンのベースとして人気を集めた。装備が簡素なカーゴバンをベースにインテリア、内外装を豪華にカスタマイズすることが流行した。

先代とは異なり、1975年モデルは2BOXとして開発された。当時のトランジットと同様エンジンを前方に搭載。ボンネットは先代と比較して約2倍程延長された。また、Fシリーズとの部品共有性が高く、ウィンドウベント、テールライト、バンパー、ホイールはFシリーズと共有している。また、16年間外観デザインはほぼ変更されなかった。

内装は新型シャシの採用により荷室が拡大され、エコノライン/クラブワゴンはE-100/150/250/350のバリエーションで販売されたが、1983年にエコノライン100は廃止された。

1978年モデルは、トラック・オブ・ザ・イヤーを初受賞した。

1978年には3,510mmのロングホイールベースモデルがベースのスーパーバン/スーパーワゴンが追加。後車軸後部が延長されたモデルで、荷室スペースや座席数が増加し、最大15人乗車が可能である。

1979年にはマイナーチェンジ。フロントグリルのデザインが変更され、丸形ヘッドライトが正方形の角形ヘッドライトに変更された。

フロントデザインは、後に登場するレンジャーとそのSUVモデルであるブロンコIIと似たものになっている。

1983年にはフォードの「ブルーオーバル」ロゴがフロントグリルに装着された。

1983年にはエンジン出力を低下させずに燃費を向上させるため、インターナショナル・ハーベスター製6.9L IDI V型8気筒ディーゼルエンジンをオプション設定。1988年には7.3Lに変更された。V型8気筒ディーゼルエンジンはエコノライン350(または同シャーシのクラブワゴン)でのみ搭載可能であった。カットアウェイバンは4.9L 6気筒エンジン、または5.8L以上のV型8気筒が搭載可能であった[6][7]

フルサイズバン市場でのATの人気向上により、1989年モデル以降、MTのラインナップを全廃止した。3速フロアシフト1986年以降廃止され、4速フロアシフトオーバードライブMTが標準搭載となった。1988年には4速がマツダ製5速M5OD型トランスミッションとなった。

4代目(1992 - 現在) 編集

1992-95 クラブ ワゴン

1992年に発売。シャシの大部分は先代からの流用で、フォード・VNプラットフォームを採用し、内外装デザインは完全リニューアルされた。4代目は複数回にわたりマイナーチェンジが実施され、最新では2021年に実施された。

4代目もFシリーズと多数のコンポーネントを共有し、前サスはツインIビームフロントサスペンション、後サスはド・ディオンアクスルである。

クラブワゴンシャトーは、モータートレンドマガジンの同年のトラック・オブ・ザ・イヤーに選出された。開発にあたっては、空気抵抗を低減する空力を考慮したデザインが採用された。

4代目は3代目からパワートレインも流用(9代目Fシリーズと共有)で、4.9L直列6気筒エンジンを標準搭載し、5.0L V型8気筒エンジン(E-150のみ)と5.8L V型8気筒がオプション設定された。E-350バンのみ、7.5L V型8気筒エンジンと7.3L V型8気筒ナビスターディーゼルエンジンもオプション設定された。ディーゼルエンジンは1993年にはターボチャージャー付となった。1995年にはIDIディーゼルエンジンが7.3L V型8気筒パワーストロークディーゼルエンジンに変更された。

1997年、エンジンラインナップが整理され、7.3Lディーゼルエンジン以外が廃止された。ガソリンエンジンは10代目Fシリーズと共有し、直列6気筒エンジンは4.2L V型6気筒へ、7.5L V型8気筒エンジンが6.8L V型10気筒エンジンへ変更された。5.0L V型8気筒と5.8L V型8気筒は、それぞれ4.6Lと5.4L V型8気筒に変更された。4.2L V型6気筒エンジンは、先代とは異なりE-150/250バンのみ搭載可能となり、E-350バンは搭載不能となった。2003年には、4.6L V型8気筒エンジンがE-250バンでも搭載可能となった。

2004年モデルでは、7.3L ディーゼルエンジンが6.0L ナビスターディーゼルエンジンへ変更され、先代よりインタークーラーが増設された。4.2L V型6気筒エンジンが廃止され、4.6L V型8気筒エンジンがE-150とE-250に標準搭載され、EシリーズはV型8気筒エンジンを標準搭載した初のアメリカ製フルサイズバンとなった。

1995年モデルでは、オレンジ色のリアウインカーに変更されたが、後に赤一色に戻されている。

2007年モデルでは、全ラインナップに8穴ホイールが採用され、GVWR3.8トンを超えた。

2008年モデルでは、シャシが改良された。ハンドリングと安全性を向上させるため、ブレーキ、ステアリングが改良され、横滑り防止装置を新規搭載。

このモデルをベースとした高規格救急車が、名古屋市消防局など一部の消防本部に導入された[注釈 1]

1997年モデル 編集

1997年に一部改良を実施し、前のグリルデザインが変更された他には、バンパー形状、ダッシュボードのレイアウトが改良され、助手席にもエアバッグが装着可能になった。また、V8フォード・トリトン・エンジンが搭載された。

2001年モデル(以降はEシリーズ) 編集

1990年代後半にエコノラインとクラブワゴンの車名が徐々に廃止されていき、1999年に完全廃止され、Fシリーズと同様「Eシリーズ」に車名を変更。

2001年に一部改良と同時に北米の一般家族向けのE-150 トラベーター(Traveler)を発売。

同時に車名がエコノラインからEシリーズに変更となった。

2003年モデル 編集

2003-2005 E-350

2003年に一部改良を実施。フロントグリルのデザインが変更され、フォードのロゴ・マークが装着され、新しいエンジンカバー、カップホルダー、グローブボックスが装備された。

2004年には、 新型6.0Lパワー・ストローク(Power Strok)ディーゼルエンジンが7.3Lディーゼルエンジンの代替として搭載され、エンジン出力は7.3Lと揃えられた。

2006年には、V10の6.8Lエンジンが搭載された。

2008 - 2013 編集

2008年モデル 編集

2008 E-シリーズ・ワゴン

2007年3月に、フォードはニューヨーク・オート・ショーで新型Eシリーズを発表した。新しいEシリーズバンは、2008年型のスーパーデューティートラックに似せたデザインとなった。 新型車は車両前後の外装デザインが変更され、ヘッドライトの大型化と大型グリルへの変更が行われた。エンジンは6.0Lディーゼルターボをスーパーデューティー(Super Duty) Eシリーズに搭載し、スーパーデューティーFシリーズには、新開発の6.4Lツインターボディーゼルエンジンが搭載された。また、ブレーキ系統、サスペンション、ステアリングシステムにも改良が加えられた。

2009年モデル 編集

2009年型のEシリーズはダッシュボードが改良され、ナビゲーションシステムが装着可能となった。スイッチ類はスーパーデューティー・トラックと共通となった。

09年モデルにはバックカメラがオプションで装備が可能になった。これはフォードのフルサイズバンの純正オプションとしては史上初の設定であった。

エンジンは、4.6Lガソリンと5.4Lディーゼルエンジンが搭載されている。

モデルの廃止 編集

2014年6月、北米でフォード・トランジットが販売開始されたため、Eシリーズのワゴンおよびバンモデルを生産終了、廃止した。Eシリーズは1980年以来、米国で最も売れたフルサイズバンであった。

ただし、カットアウェイおよびストリップドモデルは継続販売される。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ オーストラリア製の右ハンドル仕様。

出典 編集

  1. ^ a b Ford Transit: Fifty Years. クロウッド. (2015) 
  2. ^ a b Ford Pickup Trucks. モーターブックス. (1995). pp. 71-72 
  3. ^ Directory Index: FMC Trucks-Vans/1961_Trucks-Vans/1961_Ford_Econoline_Van_Brochure”. www.oldcarbrochures.com. 2024年6月2日閲覧。
  4. ^ a b Mercury Trucks Dare to Be Differen. ビンテージトラックマガジン. (2014) 
  5. ^ 1965 MERCURY Econoline Pickup Truck”. americandreamcars.com. 2024年6月2日閲覧。
  6. ^ The New Models for 1991: Mid-Range Trucks. フリートオーナー. (1990). p. 70 
  7. ^ '82 Ford Econoline Chassis”. 2024年6月2日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集