イングランドの典礼カウンティ

イングランドの州

典礼カウンティ(てんれいカウンティ、英語: ceremonial county)とは、イングランドの地域区分である。地方自治のためのカウンティとは異なり、法律上は、ウェールズおよびスコットランドと同様、1997年地方長官法英語版において、地方長官制のためのカウンティおよびエリア(英語: counties and areas for the purposes of the lieutenancies)と定義され[2][注釈 1]、各カウンティに地方長官(英語: lord-lieutenant[lɛfˈtɛnənt])が任命される。他の種類のカウンティと区別するため、非公式に「地理カウンティ」と呼ばれることもある[3]

地方長官制のためのカウンティおよびエリア
Counties and areas for the purposes of the lieutenancies
別名典礼カウンティ
Ceremonial counties
地理カウンティ
Geographic counties
カテゴリー長官任命地域英語版
位置イングランド
48(2019年)
人口8,700人 – 8,899,000人[1]
面積3 km2 – 8,611 km2

歴史 編集

グレーター・ロンドン創設(1965年)以前の典礼カウンティ(カウンティ・コーポレート英語版を主たるカウンティの一部として表示)

地方長官制のためのカウンティと行政のためのカウンティの概念が区別されるのは、新しいことではない。カウンティの一部であったカウンティ・コーポレート英語版に独自の地方長官が任命される場合もあった(もっとも、上位のカウンティの地方長官が、カウンティ・コーポレートの地方長官を併任することもしばしばあった。)ほか、ヨークシャー内の3つのライディングは、17世紀以降、それぞれが地方長官制のためのカウンティとして扱われていた。

1888年地方自治法英語版により、カウンティ議会英語版が設置され、それまで四季裁判所が担っていたカウンティでの行政機能を引き継いだ。この法律により、新たに「行政カウンティ」が創設された[4]カウンティ・バラ英語版を除く全てのカウンティが行政カウンティとなったほか、ノーサンプトンシャー内のソーク・オブ・ピーターバラケンブリッジシャー内のイーリー島といった伝統的なカウンティ内の小区分もいくつか、行政カウンティとされた。さらに、この法律により、行政カウンティの地域が、全ての目的のカウンティの地域と一致するものと定められた。最大の変更点は、カウンティ・オブ・ロンドン英語版の創設であった。カウンティ・オブ・ロンドンは、行政カウンティであると同時に「カウンティ」でもあるとされ、歴史的カウンティであったミドルセックスケントおよびサリーのそれぞれ一部を含むものとされた。その他の変更点は小さいものであり、市街衛生ディストリクト英語版(後の市街ディストリクト英語版および自治バラ英語版)がカウンティの境界をまたぐことが許されないという制約からくるものであった。

もっとも、ヨークシャーを除き、それまで小区分を有していたカウンティは典礼カウンティとして残った。例えば、行政カウンティとなったイースト・サフォーク英語版およびウェスト・サフォーク英語版は、カウンティ・バラのイプスウィッチとともに、サフォークという1つの典礼カウンティを構成するものとされ、行政カウンティとなったワイト島は、典礼カウンティであるハンプシャーの一部とされた。

「典礼カウンティ」という語は、時代錯誤なものといえる。というのも、当時すでに、陸地測量局英語版発行の地図で「カウンティ」または「地理カウンティ」と表示されており、1888年地方自治法においても、単に「カウンティ」とされていたためである。

些細な境界の変更(例えば、オックスフォードシャーカヴァーシャム英語版という町が、1911年にバークシャー内のカウンティ・バラであるレディングの一部とされた。)を除き、1965年にグレーター・ロンドンおよびハンティンドン・アンド・ピーターバラ英語版が創設され、それによってミドルセックス、カウンティ・オブ・ロンドン、ハンティンドンシャーの各地方長官職が廃止されるとともに、グレーター・ロンドンおよびハンティンドン・アンド・ピーターバラの各地方長官職が設けられるまで、カウンティにはほとんど変化がなかった。

1974年から1996年までの典礼カウンティ(シティ・オブ・ロンドンは非表示)

1974年、行政カウンティとカウンティ・バラは廃止され、大規模な改革が行われた。このとき、地方長官制は、新たに設けられた都市カウンティおよび非都市カウンティを直接使用するものと定義し直された。

1996年のさらなる見直しにより、エイヴォン英語版クリーヴランド英語版ヘレフォード・アンド・ウスター英語版およびハンバーサイド英語版が廃止された。これにより、地方自治のためのカウンティと、地方長官制のための典礼カウンティ(地理カウンティ)との区別が復活し、さらに、法文上は使用されていないものの、施行前に下院で用いられた「典礼カウンティ」という語が採用されることとなった[5]

1974年に設けられたカウンティのエイヴォンは、大半がグロスタシャーサマセットに分割されたが、シティであるブリストルは、エイヴォンの設置の際に失ったカウンティの地位を再び単独で獲得した。クリーヴランドは、ノース・ヨークシャーダラムとに分割された。ヘレフォード・アンド・ウスターは、ヘレフォードシャーウスターシャーの2つのカウンティが復活する形となった。ハンバーサイドは、リンカンシャーと、新たに典礼カウンティとされたイースト・ライディング・オブ・ヨークシャーとに分割された。ラトランドは、典礼カウンティとして復活した。多くのカウンティ・バラは「単一自治体」として再設置されたが、この地域は、通常は典礼カウンティとしてではなく行政カウンティとされた。

したがって、ほとんどの典礼カウンティは、1889年から1974年までと同様、地方自治体の集合体となっている。伝統的なカウンティ・ロビー団体の英国カウンティ協会英語版は、典礼カウンティを古来の境界に戻すべきだと主張している。

州長官のカウンティ 編集

現在のイングランドでは、州長官のカウンティ英語版は典礼カウンティと一致しており、2名のシェリフ英語版がいるシティ・オブ・ロンドンを除いて、それぞれに1名の州長官英語版が任命される。

定義 編集

1997年地方長官法は、地方長官制のためのカウンティを、都市および非都市カウンティ(1972年地方自治法英語版とその改正で創設されたもの)とグレーター・ロンドン、シリー諸島(1972年地方自治法による新制度の対象外である)によって定義した。法律上の用語ではないが、「典礼カウンティ」と呼ばれることもある。1997年地方長官法はその後複数回改正されているが[2]、これは区域内の地方自治体の構造的な変更による構成自治体の変更にとどまり、各カウンティの区域そのものは変わっていない[注釈 2]

1997年以降の典礼カウンティ 編集

2019年現在、イングランドには以下の48の典礼カウンティが存在する。

カウンティ人口
(人)
人口順位面積
(km2)
面積
(mi2)
面積順位人口密度
(人/km2
人口密度順位
構成
都市/非都市カウンティ単一自治体の区域
ベッドフォードシャー669,33836位1,23547741位54213位ベッドフォードセントラル・ベッドフォードシャールートン
バークシャー911,40324位1,26248740位72210位バークシャー
ブリストル463,40543位1104247位4,2242位ブリストル
バッキンガムシャー808,66630位1,87472432位43222位バッキンガムシャー、ミルトン・キーンズ
ケンブリッジシャー852,52328位3,3901,31015位25234位ケンブリッジシャー、ピーターバラ
チェシャー1,059,27119位2,34390525位45221位チェシャー・イーストチェシャー・ウェスト・アンド・チェシャーハルトンウォリントン
シティ・オブ・ロンドン[注釈 3]8,70648位2.901.1248位2,9984位シティ・オブ・ロンドン
コーンウォール568,21040位3,5621,37512位16041位コーンウォール、シリー諸島
カンブリア498,88841位6,7672,6133位7447位カンブリア
ダービーシャー1,053,31621位2,6251,01421位40125位ダービーシャー、ダービー
デヴォン1,194,16611位6,7072,5904位17839位デヴォン、プリマストーベイ
ドーセット772,26831位2,6531,02420位27432位ドーセットボーンマス・クライストチャーチ・アンド・プール[6]
ダラム866,84626位2,6761,03319位32428位ダラム、ダーリントンハートルプールストックトン=オン=ティーズの一部(ティーズ川以北)
イースト・ライディング・オブ・ヨークシャー600,25937位2,47795623位24235位イースト・ライディング・オブ・ヨークシャー、キングストン・アポン・ハル
イースト・サセックス844,98529位1,79169233位47220位イースト・サセックス、ブライトン・アンド・ホヴ
エセックス1,832,7527位3,6701,42011位49915位エセックス、サウスエンド=オン=シーサーロック
グロスタシャー916,20223位3,1501,22016位29130位グロスタシャー、サウス・グロスタシャー
グレーター・ロンドン8,899,3751位1,56960637位5,6711位ロンドン自治区
グレーター・マンチェスター2,812,5693位1,27649339位2,2045位グレーター・マンチェスター
ハンプシャー1,844,2456位3,7691,4559位48917位ハンプシャー、ポーツマスサウサンプトン
ヘレフォードシャー192,10745位2,18084026位8846位ヘレフォードシャー
ハートフォードシャー1,184,36513位1,64363436位72111位ハートフォードシャー
ワイト島141,53846位38015046位37226位ワイト島
ケント1,846,4785位3,7381,44310位49416位ケント、メドウェイ
ランカシャー1,498,3008位3,0751,18717位48719位ランカシャー、ブラックバーン・ウィズ・ダーウェンブラックプール
レスターシャー1,053,48620位2,15683228位48918位レスターシャー、レスター
リンカンシャー1,087,65918位6,9752,6932位15642位リンカンシャー、ノース・リンカンシャーノース・イースト・リンカンシャー
マージーサイド1,423,0659位64725043位2,2006位マージーサイド
ノーフォーク903,68025位5,3802,0805位16840位ノーフォーク
ノース・ヨークシャー1,158,81614位8,6543,3411位13444位ノース・ヨークシャー、ミドルズブラレッドカー・アンド・クリーヴランドヨーク、ストックトン=オン=ティーズの一部(ティーズ川以南)
ノーサンプトンシャー747,62233位2,36491324位31629位ノーサンプトンシャー
ノーサンバーランド320,27444位5,0141,9366位6448位ノーサンバーランド
ノッティンガムシャー1,154,19515位2,15983427位53514位ノッティンガムシャー、ノッティンガム
オックスフォードシャー687,52435位2,6051,00622位26433位オックスフォードシャー
ラトランド39,69747位38214745位10445位ラトランド
シュロップシャー498,07342位3,4881,34713位14343位シュロップシャー、テルフォード・アンド・レキン
サマセット965,42422位4,1701,6107位23236位サマセット、バース・アンド・ノース・イースト・サマセットノース・サマセット
サウス・ヨークシャー1,402,91810位1,55259938位9049位サウス・ヨークシャー
スタッフォードシャー1,131,05217位2,7141,04818位41724位スタッフォードシャー、ストーク=オン=トレント
サフォーク758,55632位3,8011,4688位20038位サフォーク
サリー1,189,93412位1,66364235位71612位サリー
タイン・アンド・ウィア1,136,37116位54021044位2,1057位タイン・アンド・ウィア
ウォリックシャー571,01039位1,97576331位28931位ウォリックシャー
ウェスト・ミッドランズ2,916,4582位90234842位3,2353位ウェスト・ミッドランズ
ウェスト・サセックス858,85227位1,99176930位43123位ウェスト・サセックス
ウェスト・ヨークシャー2,320,2144位2,02978329位1,1438位ウェスト・ヨークシャー
ウィルトシャー720,06034位3,4851,34614位20737位ウィルトシャー、スウィンドン
ウスターシャー592,05738位1,74167234位34027位ウスターシャー

1890年時点の長官任命地域 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 1997年地方長官法上、カウンティ (county) はイングランドとウェールズの、エリア (area) はスコットランドの地域区分を表す語として用いられている。
  2. ^ 例えば、2009年の改正前、典礼カウンティのチェシャーは、非都市カウンティのチェシャー、ハルトンおよびウォリントンと定義されていたが、同年4月1日、非都市カウンティのチェシャーがチェシャー・イーストとチェシャー・ウェスト・アンド・チェシャーに分割された。この典礼カウンティ内の地方自治体の変更を受けて、1997年地方長官法の別表1も改正された。
  3. ^ シティ・オブ・ロンドンは、地方長官委員会が設置されている(1名のみ地方長官が置かれる通常のカウンティとは異なる)ため、地方長官法の一部の適用においてカウンティとして扱われる。1997年地方長官法別表1第4節参照。

出典 編集

  1. ^ Estimates of the population for the UK, England and Wales, Scotland and Northern Ireland” (英語). 国家統計局. 2019年12月22日閲覧。
  2. ^ a b Lieutenancies Act 1997” (英語). legislation.gov.uk. 2019年12月22日閲覧。
  3. ^ England - Geographic counties” (英語). ブリタニカ百科事典. 2019年12月22日閲覧。
  4. ^ Local Government Act 1888 s.1” (英語). legislation.gov.uk. 2012年4月30日閲覧。
  5. ^ House of Commons Hansard Written Answers for 29 Feb 1996 (pt 8)” (英語). 2006年3月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年11月18日閲覧。
  6. ^ The Local Government (Structural and Boundary Changes) (Supplementary Provision and Miscellaneous Amendments) Order 2019” (英語). legislation.gov.uk. 2012年12月23日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集