吉田保 (レコーディングエンジニア)

吉田 保(よしだ たもつ、1946年11月6日 - )は、埼玉県さいたま市(旧:大宮市)出身の日本のレコーディング & ミキシング・エンジニア

吉田 保
生誕 (1946-11-06) 1946年11月6日(77歳)
出身地日本の旗 日本埼玉県さいたま市(旧:大宮市
職業レコーディング & ミキシング・エンジニア
活動期間1968年 -(56年目)
事務所(株)サウンド・マジック・コーポレーション

実妹はシンガーソングライター吉田美奈子。義弟は音楽家音楽プロデューサー生田朗

来歴・人物 編集

  • 吉野金次は東芝音楽工業時代のエンジニア仲間である。

サウンド 編集

吉田のミックスダウンの特徴としては、まず「古典的な三点定位」が挙げられる。三点定位とは、音源を中央に配置するか、完全に右か左に振ってしまうか、というかたちで各音源を定位させる手法で、これはステレオミックスでも最も基本的なものである。現在は楽器の空間配置を考慮して細かく各音源の定位を定めることが多いが、吉田は基本的な定位を未だにこの三点定位で配置する。ドラムスを例に挙げると、バスドラムスネアドラムハイハットはいずれも中央に、タムもゆっくりしたフィルインの場合以外は中央に配置する。クラッシュシンバルライドシンバルは完全に左右に振ってしまうことが多い。

次に、吉田の音場を最も特徴付けているのがリバーブの使用法である。吉田のミックスは際立った深みを持つことで知られているが、それは各音源にかなり深いリバーブをかけていることによる。一般に、過剰なリバーブの付与は音場を濁らせ、リズムを不明瞭にする弊害があるのだが、吉田はアタックを抑制し、長いリリースの残響を付与することでこれらの弊害を減らし、深い残響を与えている。これには以前は専らプレートリバーブの代名詞的存在であった「EMT 140」を用いていたが、80年代以降は良好なプレートエコーのシミュレーションが可能なソニー製の「DRE-2000A」、「DPS-R7」の使用を経て、現在はSonnox社のプラグインである「Oxford Reverb」を愛用している。

様々なアーティストのレコーディングに参加しているが、とりわけ大滝詠一山下達郎の諸作品でのエンジニアリング・ワークが有名である。

レコーディング参加作品 編集

市川実和子
  • 『PINUP GIRL』
大滝詠一
大野雄二
カルロス・トシキ&オメガトライブ
木内美歩
  • 「無視線」
  • 「片想いを殺したい」
  • 「第三者」
キンモクセイ
ゴスペラーズ
今野登茂子
  • 「BLACK CHRISTMAS/ゆらり」
シュガー・ベイブ
  • SONGS』※86年盤リミックス
シリア・ポール
  • 『夢で逢えたら』※87年盤リミックス
須藤薫
  • 『あなただけI LOVE YOU』
THE SQUARE
スコーピオンズ
DEEN&原田知世
  • 「夢で逢えたら (Single Mix)」
はっぴいえんど[1]
  • 「12月の雨の日(シングル・バージョン)」※未発表
  • 「はいからはくち(シングル・バージョン)」※小坂忠コーラスバージョン
浜田省吾
ピチカート・ファイヴ
平松愛理
フランク永井
  • 「WOMAN」
細川たかし
松田聖子
南佳孝
山下達郎
吉田美奈子
RAZZ MA TAZZ
  • 「夜明け/素敵な君」
渡辺満里奈 / 植木等
渡辺満里奈

吉田保 リマスタリングシリーズ 編集

2014年から2015年にかけてリリースされた、吉田によるリマスタリング・シリーズ。1982年にCDが発売されて以降、デジタル技術の進化により、CDに記録できる音圧は次第に大きくなっていった。しかし、記録できる最大レベルは一定のため、音圧を上げるほど、楽器や声の持つ本来のピーク・レベルをつぶす必要があった。1990年代後半、マスタリング作業にデジタル・コンプレッサーが導入されると、その効果により音圧が飛躍的に上がる一方、楽器が持つ本来の音の強弱や起伏も消す結果となった。そのため派手でクリアでいわゆる「良い音」に聴こえるかもしれないが、耳に負担がかかり、長時間聴くには適さない音になった。音圧競争がエスカレートする中、アナログの限界しか意識しないで作られた当時の作品のリマスタリングには、こうした流れに一考の余地がありそうだという[4]。このシリーズは音圧を稼ぐだけのマスタリングと異なり、ピーク・レベルのコンプレッションを抑えることで、楽器の持つ本来の強弱やシンガーやプレイヤーの表現、そしてアナログ・レコードの臨場感を再現することを目的としたマスタリングが特徴。吉田が当時自身で録音した音はこうだった、あるいはこうあるべきだとの判断でリマスタリングされているため、近年マスタリングされた他のCDと比較すると音圧レベルが小さく感じられるかもしれないが、ボリュームを上げて聴き比べれば、力強くて芯がある音にもかかわらず耳にやさしい、アナログ・レコードのサウンドを想起させる音に仕上げられているという[4]

第1回13タイトル、第2回7タイトル、第3回6タイトル、第4回5タイトルのほか、杉真理1984年発表の通算6作目のアルバムが、リリース30周年記念盤として吉田による新規リマスタリングでリイシューされた。また、RAJIEのソニーミュージック音源5タイトルも、ブリッジから再発された[5]。いずれも吉田による2014年および2015年リマスタリング音源を使用し、Blu-spec CD2フォーマットが採用された。

リリース一覧 編集

Sony Music Shop / タワーレコード限定販売(『MISTONE-30th Anniversary Deluxe Edition-』のみSony Music Shop限定)
アーティストタイトル品番オリジナル発売日
杉真理MISTONE-30th Anniversary Deluxe Edition-DQCL-30502014年08月22日
第一弾 (2014年10月8日発売)
吉田美奈子(RCAイヤーズ)MINAKOMHC7-300021975年10月25日
MINAKO IIMHC7-300031975年12月20日
FLAPPERMHC7-300041976年03月25日
TWILIGHT ZONEMHC7-300051977年03月25日
南佳孝SOUTH OF THE BORDERMHC7-300061978年07月21日
DaydreamMHC7-300071983年07月21日
冒険王MHC7-300081984年06月21日
LAST PICTURE SHOWMHC7-300091986年02月26日
ハイ・ファイ・セットPasadena ParkMHC7-300101984年02月25日
INDIGOMHC7-300111985年02月25日
Sweet LocomotionMHC7-300121986年04月10日
GibraltarMHC7-300131987年04月01日
EyebrowMHC7-300141988年03月21日
第二弾 (2015年2月11日発売)
吉田美奈子(アルファ・イヤーズ)愛は思うまま LET'S DO ITMHC7-300161978年10月25日
MONOCHROMEMHC7-300171980年10月21日
MONSTERS IN TOWNMHC7-300181981年11月21日
LIGHT'N UPMHC7-300191982年09月21日
IN MOTIONMHC7-300201983年03月25日
ケン田村Light Ace +3
※ボーナス・トラックとしてアルバム未収録3曲を追加収録
MHC7-300211981年02月25日
FLY BY SUNSETMHC7-300221982年07月01日
第三弾 (2015年4月8日発売)
EPODOWN TOWNMHC7-300231980年03月21日
GOODIESMHC7-300241980年11月21日
JOEPO〜1981KHzMHC7-300251981年09月21日
う・わ・さ・に・な・り・た・いMHC7-300261982年05月21日
VITAMIN E・P・OMHC7-300271983年04月05日
HI・TOUCH-HI・TECHMHC7-300281984年02月21日
第四弾 (2015年8月5日発売)
CINDYAngel TouchMHC7-300321990年06月25日
Don't be afraidMHC7-300331991年08月25日
濱田金吾Manhattan in the RainMHC7-300341980年01月21日
GENTLE TRAVELIN'MHC7-300351981年02月21日
FEEL THE NIGHTMHC7-300361981年11月05日
パートナー企業専売商品(BRIDGE-inc./CS RECORDSより発売。紙ジャケット仕様、数量限定)
アーティストタイトル発売日品番オリジナル発売日
RAJIEQuatre2014年09月27日BRIDGE230 (DYCL-3019)1979年
真昼の舗道BRIDGE231 (DYCL-3020)1980年
ACOUSTIC MOONBRIDGE232 (DYCL-3021)1981年11月21日
HEART to HEART2014年10月27日BRIDGE236 (DYCL-3022)1977年
LOVE HEARTBRIDGE237 (DYCL-3023)1978年12月21日

脚注 編集

  1. ^ 当初ははっぴいえんどの初代ミキサーになる予定だったが、諸事情で実現しなかった。
  2. ^ 山下達郎との「新春放談」で山下の「売ってるやつは大滝さんが御自分でやったんですか?」の問いに大滝が「いや、あれは保さんだよ」と答えている。また、山下の「吉田さんはとにかく、チャンチキが死ぬほど嫌いだっつてね」に、大滝も「本当に嫌がるんだよ」と答え、さらに山下が「土着な物をものすごく嫌う」と話している。
  3. ^ 後にナハ肇とクレイジーキャッツの「実年行進曲」をミックスした河田為雄がミックスした最初のミックスがCD化されている。
  4. ^ a b 「吉田保 リマスタリングシリーズ」チラシ“吉田保 リマスタリングシリーズについて”
  5. ^ ラジ(Rajie)ソニーミュージック音源再発企画”. BRIDGE INC. CATALOG & ONLINE STORE. 株式会社ブリッジ. 2016年3月28日閲覧。[リンク切れ]

外部リンク 編集